「おじさん」中心の社会に一石を投じるユーモラスな物語|松田青子さん最新刊
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ryomiyagi

2020/06/27

 

本誌の書評連載も大人気の松田青子さん。初の長編小説では「男性が演出する女性アイドルは女性の性的搾取とわかっていても引きつけられる。その理由を考えつつ、今の日本社会を描きたかった」と語ります。セクハラなど理不尽な暴力に立ち向かう力が湧く、痛快な作品です。

 

「おじさん」が作った構造のなかでしんどいと感じる人はたくさんいるんです

 

持続可能な魂の利用
中央公論新社

 

毎月、本誌の書評連載で社会に潜む歪みや偏見などを描いた作品を紹介し、多くの読者の心をわしづかみにする松田青子さん。待望の初長編小説『持続可能な魂の利用』は“「おじさん」から少女たちが見えなくなる”という不思議な現象が起こるところから始まります。「おじさん」たちの嫌な視線から解放された少女たちは復讐を開始。そのため「おじさん」と生活圏が重ならないように決められます。

 

主人公は、女性アイドルにハマる30代女子の敬子。羽田空港で“日本の女の子”たちに遭遇し「最弱」だと衝撃を受けますが、笑顔を見せずに歌う女性アイドルグループの存在を知り、ハマっていきます。日常に溶け込む違和感から立ち上がる敬子は……。執筆のきっかけは2つあったと言います。

 

「’16年に出した『ワイルドフラワーの見えない一年』のなかに『あなたの好きな少女が嫌い』という短編を収録しました。これは、少女を都合よく消費する日本のロリコン信仰に対するアンチテーゼのような作品ですが、そのなかに女の子の楽園が登場します。これを長い作品として書きたいと思っていたのが一つです」

 

もう一つの理由は、松田さんのアイドル好きと関係があります。

 

「私自身もアイドルを見るのが結構好きで、AKB48にもハマっていました。ところが、恋愛が発覚したメンバーが謝罪として頭を丸坊主にする出来事が起こった。日本の女性アイドルが置かれた搾取の構造はわかっているつもりだったのですが、突きつけられてショックを受け、それから日本のアイドルを追っかけるのをやめていました。でも、数年前に欅坂46の存在を知り、YouTubeでMVを再生したら、またしてもハマってしまいました。男性プロデューサーが演出し、悪しきシステムだとわかっているのになぜ心が動くのか、これはどういう現象なのか書いてみたいと思ったんです」

 

これら2つが横糸と縦糸。そこに、ここ数年の間に社会で起こった違和感大の事柄を絡めて物語は編みあげられていきました。

 

「医学部が女子学生を入学段階で差別していたこと。大相撲春巡業で挨拶をしていた市長がくも膜下出血で倒れたとき、救命措置のため土俵に上がった女性に対して日本相撲協会が土俵を下りるようアナウンスしたこと……。日本のヤバさが可視化される出来事が多々あり、その感じを残したかった」

 

松田さんは女性アイドルたちにも、日本社会と同じ構造が背景にあると指摘します。

 

「どれも家父長制にどっぷり浸つかっている男性が作った構造です。国の構造も社会システムもすべて男性、夫がメイン。本作品ではそういった家父長制に象徴されるものを「おじさん」と表現しました。ですから「おじさん」は中高年の男性に限るわけではなく、若い男性や女性のなかにもいます。

 

結局「おじさん」にだけ都合のいい社会が長年作り上げられていて、慣らされてしまった人も多い。でも、それがしんどい人がたくさんいることを書きたかった。

 

昨年、子どもを出産して改めて日本のひどさを実感しています。電車もバスもベビーカーを見ると睨にらみつけたり舌打ちしたり。過日、乗った電車の優先席に座っていたのはスーツ姿の男性や男子学生で、妊婦さんや子連れが目の前に立っていても絶対に譲らない。幼いころから「おじさん」になる教育を受けてしまっている。そういう社会構造は、女性たちがつながることで変えていかなければなりません」

 

随所にユーモアをちりばめられ、リーダビリティは抜群!全ページに共感ポイントがあり、うなずきまくり。読後、力が漲ります。

 

■松田さんの本棚から

 

おすすめの1冊

帝国を壊すために
アルンダティ・ロイ 著
本橋哲也 訳
岩波書店

 

「インド人女性作家によるポリティカルエッセイ集。権力を持たない私たちはどうやって権力と立ち向かうべきか、書かれています。理知的で、情熱的で、素敵です。20代のころに読み、生き方に多大な影響を受けました」

 

PROFILE
まつだ・あおこ◎’79年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業。’13年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞および野間文芸新人賞候補に、’14年にTwitter文学賞第1位となり、’19年には『ワイルドフラワーの見えない一年』収録の「女が死ぬ」(英訳:ポリー・バートン)がアメリカのシャーリィ・ジャクスン賞短編部門の候補に。『英子の森』『おばちゃんたちのいるところ』など著書・訳書多数。

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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