深い森をさまよう『ふるえるからだ』著者新刊エッセイ 大西智子
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ryomiyagi

2020/08/05

家族と交わるところを、想像したことがあるだろうか。交わる、というのは、この場合性交のことである。ふつうは、ない。まあないだろう。あってもないと答える。なぜなら想像するだけでおぞましく、罪深い気分になる。想像しようとしても脳にストッパーがかかる。しかし私は今回、そのストッパーをとりはずして考えてみたのだ。家族と性交する、ということが、どういうことなのか。

 

とかく近親姦については、話題にのぼりにくい。当然、そんなことはありえないし、あったとしてもひた隠しにすることだとみなが心得ている。だから表には出てこないが、秘された数は世間の人が思っている以上に多いともいう。小説のなかでも触れたが、家族との婚姻を規制する法はあっても、性交を規制する法はない。

 

近親姦と聞いて、たいていの人は嫌悪感を覚える。ではその嫌悪感は、どこからくるのか。そんなことを真面目に考えたことがある人はどれくらいいるのだろう。だめなものはだめ、無理なものは無理としか認識していない人がほとんどなのではないか。

 

この小説を書く少しまえ、試しにネットで近親姦について検索してみた。すると出るわ出るわ、アダルトサイトが。一般的にはタブーとされ、忌避されていることが、これだけ多いのはどういうことだろう。もちろんフィクションである。フィクションだから楽しめる。しかしどこかで、家族との交わりを求める気持ちが、多くの人の心のなかにあるのだろうか。私にも家族がいる。考えるも恐ろしいことだ。しかしその恐ろしいことを、ごく真面目に、正面から、考えてみたのだ。けっして楽しい作業ではない。不快な身体感覚をともなう。じめじめした深い森をさまようようなものだ。

 

だがそうすることで、この小説を書くことができた。結果、生々しい物語ができあがった。深い森をさまよった軌跡を、ぜひたしかめていただきたいと思う。

 

『ふるえるからだ』光文社
大西智子 / 著

 

【あらすじ】
四十歳の志津は、スーパーで見かけたアルバイトの大学生・理人に近づくため、同じスーパーでアルバイトを始める。夫であり、いとこでもある和仁から「離婚しよう」というメッセージが届いた数日後、志津は理人を待ち伏せし、強引に車の助手席に誘うが……。

 

【PROFILE】
おおにし・ともこ 1979年大阪府生まれ。2014年に「カプセルフィッシュ」が第8回小説宝石新人賞・優秀作に選ばれる。2015年、『カプセルフィッシュ』にてデビュー。2018年、『にんげんぎらい』を刊行。

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