“億万長者”になった中卒の大工見習少年が見つけた「人生の公式」
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ryomiyagi

2020/12/02

 

徐々に緩和されてきてはいるようだが、いまだに教育の現場は硬直したままの観がある。単純に学校へ行きたくなかったり勉強が嫌いだったりという、従来のドロップアウトに加え、「虐め」がクローズアップされることにより、当局が手を出しづらい状況が教育現場を硬直させているようだ。時代は変わって、良くも悪くも「多様性」が求められる昨今、政治と教育のみが20世紀のシステムを固持しようと足掻いているように見えてならない。
先日『20年で元本300倍お金が集まる5つの原則』(光文社新書)を手に入れた。基本的にビジネス書には興味のない私だが、ページを繰るとそこには、世にいうドロップアウト組の、艱難辛苦の末にではない見惚れるようなサクセスストーリーが描かれていた。

 

僕は「よい人生の公式」がどうしても理解できなかった。

 

まだ10代の頃の著者が納得できなかったというのは、当時(現在もか)、大人たちがこぞって口にしていた「よい人生=よい高校+よい大学+よい会社」という人生の公式だった。などと著者が疑問を感じたこの公式を、今も肯定的に見る人は少なからず居るはず。平成・令和と時を経た現在、終身雇用や年功序列が当たり前だった昭和のように一辺倒に信じ込んでこそいないだろうが、それでも肯定的に見るとすれば、そこにはおそらく、二つの理由がある。
それは、「これに代わる公式が見いだせない」か「無いよりはマシ」的な、安全パイは残しておきたいという「最善と思える選択肢から目を背ける」半ばあがり放棄にほか無い。

とは言え、その後の著者が選択した手段は余りにも冒険が過ぎた……。
それまで成績優秀だった中学生の彼が、自転車の乗って家出し、警察に保護された後に両親に連れられ自宅へと戻る。と、よく聞く家出少年の姿が描かれている。
そこには、はにかむほどのセンチメンタルこそあれ、トピックス性は無い。
しかし著者の、悩める少年時代はさらに加速度を増して行く。

 

まず初めに訪ねたのは理科の先生だ。
「先生、僕は科学者になるつもりはありません。飽和水溶液を冷却したときに抽出される結晶の質量計算は、将来何の役に立つんですか」
「…科学者になんなくても、高校受験では大事な科目なんだよ。勉強していい高校に行けば、いい大学に行けるし、いい会社に入れるんだ。勉強は、将来のためなんだぞ」
国語の先生にも聞いた。
「僕は漢文が得意でもないし、興味もありません。こんな、主語が無くてわかりにくい文を、なぜ読めるようになんなくちゃいけないんですか」
「将来、使うかどうかはわかんないけど、大切なのは、できないことができるようになることなんだよ。できるようになると自信がつくだろう。それに、なんたっていい高校にいけるんだ。秋山は成績がいいんだし、このままなら高高(著者の地元の進学校)に行けるんだから頑張りな」
両親や親戚のおじさんも似たような返事だった。(中略)
状況が変わったのは中学3年生になったときだ。
「今日からみんなは3年生です。今年は、みんなにとって高校受験のために一生懸命勉強をする年です。いい高校に入るために、1年間頑張っていきましょう」
「はい!」
僕を除く40人のクラスメート全員が声を揃えて返事をした。僕は恐怖を覚えた。

 

周囲の大人たちに疑問を投げかね、納得のいく答えの得られなかった著者は、その後、教科書を顧みないという方法でサボタージュし、成績優秀だったにもかかわらず高校進学を拒絶し知人の勤める工務店に大工見習として就職する。

 

「なぜ誰かが決めたよくわからない公式を信じて、懸命に、もしくは適当に道を進めるのか」

 

高校進学を断念して一足早く仕事に就いた著者は、御多分に漏れずバイクと彼女を手に入れるが、スピードに興じるうちに生死を彷徨うほどの事故を起こし、そんな彼の元を彼女は去っていく。
一人孤独と絶望感に苛まれる著者は、それまでの自分を振り返り深く反省するとともに、そんな自分が最も楽しいと感じていた瞬間を思い起こし、それを生涯の仕事にしようと決意する。それが、仲間たちとの音楽活動で覚えたエンターテインメントへの憧れと喜びだった。そして著者は、そこへと続く道を再構築するために、大検により高校卒業資格を獲得して大学へと進む。
と、ここまでの話に、その後一念発起した後の手段と努力が語られるドロップアウターの逆転劇だが、本書はそんなありきたりの物語ではない。

 

一度ドロップアウトした著者の、復帰はさらにエッジが効いている。

 

なんと著者は、エンターテインメントとそれに必須であるビジネスを学ぶためにニューヨーク大学を目指すのだ。
とは言え、高校進学でつまづいた著者にとって英語は最も高いハードルだった。
著者は、まずはニューヨーク州立大学に入学し、そこで懸命に学んだ結果、1年半後にニューヨーク大学への編入を果たすのだ。ここでも著者が選んだ道は、まずはいずれか国内の大学へ進み、そこから渡米・留学などと言うありきたりの形ではなかった。
多くの10代が罹る流行り病のような反抗心ではなく、自分自身が信じられる「公式」を真摯に求め続けた著者が辿り着いたのは、エンターテインメントと金融の総本山ニューヨーク。そのニューヨークで、著者はその後の人生をクリエイトするに足るノウハウを手に入れるのだ。

 

ニューヨーク大学の2年半ほど、人生で勉強が楽しかった時期はなかった。

 

そんな著者が、アメリカで学んだエンターテインメントのノウハウの一部を語っている。

 

授業の大半は、実際のビジネスで起きたケースを例に、問題を分析し、プレゼンテーションで発表し、ディベートで議論を深めることだった。座学で学んだ知識をもとにケース分析やディベートをしていると、講義で得た知識が自分の経験に変わっていくようだった。

 

それまでディズニー社への就職を考えていた著者は、日本で新たにテーマパークを開設しようとしているユニバーサル社の存在を知ることとなる。すでに完成したパークの運営ではなく、これからまさに一つの街を創ろうとしている同社で得られる経験に魅力を感じ、ディズニー社ではなくユニバーサル社への入社を決める。
とはまだ、いち就職希望者が勝手に思い込んでいるだけだが、ここでも著者のモチベーションは一切の妥協と揺らぎを見せない。
サンフランシスコの就職フォーラムに足を運んだ著者は、同社の人事ディレクターに「ユニバーサル社で働くために来た」と高らかに宣言し、ニューヨーク大学で学んだノウハウと、ここに至る6年間を話して聞かせる。
そして見事にユニバーサル社への就職を果たし、その後、ユニバ-サル・スタジオ・フロリダで運営ノウハウを学び一年後帰国。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの創設メンバーとなる。

 

僕の最初の職場、ユニバーサル・スタジオ・フロリダのアドミッションエリアは、これから始まる一日に期待するゲストでいつも溢れていた。ゲストの笑顔を見ていると、「僕が売っているのはチケットではなく、一日のパークでの楽しい経験だ」と誇りを感じた。
ユニバーサル社で最初の給料をもらったときはうれしかった。大工をしていたときの半分くらいだったけれど、楽しい体験を売った結果としてもらったお金だと考えると、うれしさは大工のときより何倍も大きかった。

 

帰国して後の著者の活躍のほどは、今や東京ディズニーランを凌ぐ人気のUSJを見れば一目瞭然だ。
しかし、そうは言っても、あれほどの大規模テーマパークを安定的に運営し続けるのは困難に違いない。開業した当初こそ、世界のテーマパーク業界史上、最速で1000万人の入場者数を記録したが、2年目以降の業績は右肩下がりに下がり続けた。
そんな中、著者はUSJが開園後にオープンする初の大型アトラクションである「スパイダーマン・ザ・ライド」のマーケティングリーダーとなる。

 

僕のやることははっきりしていた。スパイダーマン・ザ・ライドを通じて、消費者に価値を提供することだ。それができれば結果として業績も必ずついてくると考えた。
「マーケティングとは経営そのもの。消費者や顧客に商品購入の理由をつくることであり、商品が売れる環境をつくることだ」と、ニューヨーク大学での学びを自分なりに解釈していたおかげで、そう考えることができた。(中略)
スパイダーマン・ザ・ライドは見事に成功した。右肩下がりの業績にも歯止めをかけることができ、パークはこの年から安定成長の軌道に乗った。

 

本書のテーマである、「お金が集まる5つの原則」の最初に掲げた原則。『お金はやりたいことで稼ぎなさい』を、まさに実践する著者の姿がここにあった。

 

と、著者の10代を知るだけでも、恥ずかしながら同じく10代でドロップアウトしてしまった過去を持つ私などは、当時、本書に出会っていたなら……。
著者のように好きなことを仕事に出来、かつ成功を収め、さらに潤沢な自己資金を得るとまではいかないまでも、少なからず将来は上方修正できていただろうと確信できる。
『20年で元本300倍お金が集まる5つの原則』(光文社新書)の本題を語るでなく、著者の若かりし頃を書き連ねてしまったが、それほどに説得力の有る半生だ。さらに本書は、言うまでもなく「元本300倍」にする極めて具体的なノウハウを教えてくれている。資金運用を考えている方はもちろんのこと、学業に疑問を持っている現役10代の若者にも読んでほしい。

 

文/森健次

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