ryomiyagi
2021/02/24
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2021/02/24
2021年1月、オーストラリアのシンクタンクが新型コロナウィルスへの各国の対応度をランキングにして発表した。98か国の感染者数や死者数、一人当たりの病床数などのデータを集め指数化した結果によれば、日本が45位なのに対し、ニュージーランドは首位を獲得している。早い段階から今に至るまで海外からの入国を厳格に制限したニュージーランドの感染者数は確かに低い。
他に一体どんな対策がコロナ封じ込めに効果を示したのか? ニュージーランド在住のジャーナリスト・クローディアー真理さんは「警戒レベル」の活用をその一つとして挙げる。
警戒レベルは、コロナの広がり具合に応じた政府の対策を国民が事前に理解し、緊急時に速やかに協力してもらうために大切な役割を果たしている。レベルは1から4まであり、レベル1が最も危険度が低く、レベル4が最も高いという設定だ。各レベルの状況、また禁止事項とやるべきことは箇条書きになっており、とてもわかりやすくできている。
ニュージーランドではもともと、山火事や水不足に備えて警戒レベルを用いて対策をしていた。今回のコロナ下では、それを応用したのだ。
レベル1では国境に厳戒態勢を敷きソ-シャルディスタンスを強化、レベル2になるとそれが義務化し、在宅勤務推奨、高齢者や持病のある人の外出自粛が原則化する。レベル3では公共施設や感染者の出た学校が閉鎖され、エッセンシャルワーカー以外は在宅勤務へ、葬式や結婚式を除いて10人を超える集会が禁止に、レベル4は世帯単位の隔離、生活必需品の購入目的以外の外出禁止、企業や学校の閉鎖、移動制限が加わる。
この仕組みはイギリスや南アフリカなどもお手本として取り入れるほど、感染者数抑制に貢献した。
2020年3月21日、警戒レベルが導入されると、同時にニュージーランド全土はレベル2に。2日後にはレベル3、その翌々日までにはレベル4に引き上げられた。レベル3と4はロックダウン相当。厳しい行動制限が求められたニュージーランド国民だったが、その期間中に行われた調査によると、政府の対策に従って行動していると自己評価した人は92%にも上った。さらに、政権を信頼していると答えた国民は83%、政府のパンデミック対策が正しいと評価するとしたのは84%だった。
これほどまでに国民の支持を得られたのは、ジャシンダ・アーダーン首相の密なコミュニケーションに秘密があると、クローディアーさんは指摘する。
首相は国民とのコミュニケーションを重要視し、政府と国民との間に生じがちな情報面におけるギャップを埋め、不安感を和らげようと努めている。その際のツールの一つがSNSだ。……(中略)
アーダーン首相は特にフェイスブックライブを頻用している。毎回100万ビューを超え、1万5000件以上のコメントが寄せられる。配信はたびたびおこなわれているが、中でも人々の記憶に残っているのは、国家非常事態が宣言された3月25日の夜の配信だろう。
「こんばんは、みなさん。ちょっとフェイスブックライブ配信しようと思っています。向こう数週間、自己隔離をする準備の具合はいかがかなと思って」
そう言ってアーダーン首相はスウェット姿のリラックスした姿で登場した。ベッドに腰かけ、さっきまで子供を寝かしつけていた所だと話す首相は、人々から寄せられた外出方法、ビザの期限切れ、家賃の支払い、物価の高騰など様々な質問に、質問者の名前を呼び掛けながら丁寧に答えたという。
ビュー数は、約500万の人口に対して540万を超えた。5万1000件以上も寄せられたコメントには「あなたは今までで最高の首相です」という声もあった。
こうしたアーダーン首相のコロナ対応は各国主要メディアや著名人からも賞賛されてきた。
中でも、アーダーン首相の危機コミュニケーションについて、イギリスの4つの大学の研究者たちが興味深い研究を行い、報告している。
対象は3〜4月に首相が一般人向けに行ったフェイスブックライブを含めた40のスピーチ。分析の結果分かったのは、スピーチで見せた、誠実で思いやりがあり、事態解決のために努力しようという首相の姿勢が国民に団結を促したことだという。
またコロナ対策の進捗状況や苦労話を聞き、国民は首相に親近感を抱くようになったそうだ。報告書によると、国民が共感できる首相の言動と「お互いの面倒を見よう」とフェイスブックライブのような非公式な場での呼びかけが相まって、みなに社会の一員として果たすべき役割があり、社会的連帯感のイメージを生み出すことに成功したのだという。……(中略)報告書の作成に携わったヒューマン・リソース・マネジメントを専門とするスコットランドのグラスゴー・カレドニアン大学のデビットマクガイヤー博士も、「コロナのパンデミックで、各国リーダーの指導力とコミュニケーション力が大いに試されることになった」と話している。
実際、アーダーン首相がスピーチで度々口にしていたのが「親切を心がけよう」という言葉だそうだ。その言葉通り、アーダーン首相は感染する危険性が高いお年寄りを見守ることや、売り上げ減が懸念される地元の店を利用することを呼びかけていた。また、「子ども記者会見」を開くなど、子どもに向けてコロナ対策を説明することもあり、ロックダウン期間に重なってしまったイースター休暇には、ロックダウンのためにいつもは卵型チョコレートを届けてくれるイースターバニーが今年は来ないかもしれないと心配する子どもたちに向けてメッセ―シを送っていた。
コロナ対応力が世界から評価されたニュージーランド。その秘策は、単なる政策の域にとどまらない、首相と国民の信頼関係を築いたコミュニケーションにあったのかもしれない。
文/藤沢緑彩
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