日本で日々奮闘する「弱そうな警備員」――超高齢社会と警備ビジネス 
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警備員が従事している警備ビジネスのことを「警備業」と呼ぶ。警備業は、契約に基づいて「他人の生命、身体、財産等」を守るサービス業だ。

 

ということは、警備員という人々も、それ相応に「強そう」でなければならないと考えるのは自然なことだろう。
逆を考えみてほしい。一見して「弱そう」な警備員から「あなたの生命、身体、財産等を守ります」と言われても、契約する側は「この人で本当に守れるのだろうか」と不安を感じるのではないだろうか。

 

ところが、「弱そうな」警備員が日々奮闘しているのが日本の警備業の実状だ。

 

ここで、「平成28年における警備業の概況」を見てみよう。

 

警備員の年齢別・男女別の状況

出典:警察庁「平成28年における警備業の概況」

 

まず、もっとも若い「30歳未満(18~29歳)」は、日本全国で約54万人いる警備員のうち、10・3%。
「30~39歳」はどうだろうか。こちらは「30歳未満」とそれほど変わらず、11・7%。
「30歳未満」と「30~39歳」をあわせても22%にしかならない。
そして、「40~49歳」が16・1%、「50~59歳」が19・7%。これらをあわせると35・8%。「40~49歳」と「50~59歳」は一般的には「おじさん」といわれる。つまり、警備員の3人に1人は「おじさん」で占められていることになる。

 

以上、「30歳未満」から「50~59歳」までの構成比の合計は57・8%だが、残りの42・2%はどの年齢層になるだろうか。
もちろん、「60歳以上」である。

 

ここで、「高齢化率」に目を転じてみたい。
高齢化率とは、総人口に占める65歳以上の割合を指す。
内閣府の発表によると、2016年10月時点の日本の高齢化率は27・3%(『高齢社会白書』<平成29年版>)。
より具体的には、総人口1億2693万人のうち、65歳以上の高齢者人口は3459万人。

 

ちなみに、この27・3%という高齢化率は、世界保健機関(WHO)や国連の定義にあてはめると、「超高齢社会」といわれる水準となる。国際的には、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と定義される。

 

日本の警備業界の場合、「65~69歳」の構成比が16・8%、「70歳以上」の構成比は9・6%。これらをあわせると26・4%となる。すなわち、国際的な定義にあてはめると、日本の警備業界は「超高齢社会」と呼ぶことができるのだ。

 

ここで、もう一つ確認したいことがある。それは、警備員の在職年数だ。

 

60歳以上の警備員が42・2%、そのうちの26・4%の警備員が65歳以上ということは、見方を変えれば「日本には、ベテランの警備員が揃っている」ということができる。

 

ところが、次の警備員の在職年数をまとめた表を見ていただきたい

 

表4-2 警備員の在職年数


出典:「平成28年における警備業の概況」

 

在職年数が「1年未満」の警備員が16・1%、「1~3年未満」が21・9%。これらをあわせると38%。つまり、「在職年数3年未満」の警備員は全体の38%を占めている。いいかえれば、3人に1人以上の警備員が経験の浅い警備員というわけだ。

 

それだけではない。「3~10年未満」の警備員を見てほしい。こちらは38・9%。

 

ということは、「在職年数10年未満」の警備員は全体の76・9%を占めていることになる。

 

では、なぜ、日本では高齢になってから警備員としての新たな人生を歩み始めなければならないのだろうか。

 

警備業を研究している仙台大学の田中智仁准教授によると、そこには「年金問題」が横たわっているという。

 

近著『警備ビジネスで読み解く日本』(光文社新書)では、警備ビジネスという観点から日本社会が抱える課題を浮き彫りにする。

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田中智仁(たなかともひと)

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