ryomiyagi
2021/06/30
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2021/06/30
このところ、在宅医療を取り巻く風潮が変化しつつあるようだ。書店では、在宅医療に関する本や雑誌をよく見かけるし、テレビでも在宅医療をテーマにしたドキュメンタリー番組が多く放送されている。そして番組のクライマックスは、ほとんどの場合が在宅での看取りだ。
在宅医療に関わる救急医である著者は、「在宅医療=在宅での看取り」という世間の捉え方に危機感を抱いている。そもそも在宅医療とは、医師や看護師などの医療者が患者の自宅に赴いて行う医療のこと。在宅医療が選択肢にあがる理由はさまざまだ。継続的な診療は必要だけど入院するほどではない、あるいは入院しても医学的にはあまりやること(できること)がない、定期的な通院が難しいなど、事情は患者ごとに異なる。このように、在宅医療とは、看取りを前提にした医療だけを指すのではなく、むしろ「患者さん一人ひとりの『生きる』を支える医療」であり「支える医療」として機能している。在宅医療が外来医療や入院医療に次ぐ「第3の医療」と呼ばれる理由はここにある。
在宅医療に関するあらゆる疑問に一通り答えたいという著者の言葉通り、本書には、聞いたことはあるがよく知らない在宅医療の仕組みとその全貌を、一般の人でも分かりやすいように説明してくれている。
たとえば今、在宅医療というスタイルが全国的に浸透し始めている背景には、厳しい医療財政の問題がある。その結果、ひと昔前ならしばらく入院していたような患者も、退院して在宅療養に切り替えざるを得ないのだという。
在宅医療が推進される理由はほかにもある。長生きする人が増え、人口に対する高齢者の割合が増えたことで、日本が「多死社会」を迎えつつあることだ。著者によると、2019年、国内で亡くなった方の人数は約138万人。この数字は、高齢者人口がピークを迎えるとされる2040年には168万人に達すると推定されている。経済が伸び悩み、医療財政が逼迫している状況下で、30万人近く増えるであろう死亡者をどこで受け入れるのかが、今後の課題だ。「死に場所が不足する」という事態を解消するため、在宅での療養や看取りを支える在宅医療がこの先、これまで以上に重要になってくると著者は説明する。
在宅医療はまだ新しい医療ということもあって、未整備な部分が多い。その上、現在の仕組みでは多くの法律が複雑に絡みあって作られているため、これから在宅医療を始めようとしている患者やその家族を混乱させている。在宅医療の現場には、「在宅医」と「救急医(病院医)」の二種類の医師が関わっているのだが、私はその事実すら本書を読むまで知らなかった。在宅医療とは、看取りのことではない。「より良い人生を生きるための一つの手段」であるとの著者の言葉が印象的だった。
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