みんな、なんとか生きている――酒場ライターによる、明日を生きるための「ほろ酔い」奮闘記
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ryomiyagi

2021/09/29

カセットコンロで缶詰を加熱

 

酒場ライターである著者による本書は、小さな幸せを紡ぐ「ほろ酔い」エッセイである。「イモノプレートで食らう!ワイルドステーキ」「渇望の果てのとんかつ飲み」「市場食堂のカレーライスと瓶ビール」「自室でこっそり鴨ネギ陶板焼き」などなど、お酒好きにはたまらないタイトルがずらりと並んでいる。

 

コロナ禍の真っただ中ということで、お店でお酒を飲んだ話はごくわずか。その代わりシチュエーションに凝ってみたり、自宅やベランダを舞台につまみにこだわってみたりと、この時代ならではのお酒の楽しみ方をあの手この手を使って模索している。奇しくも「コロナ禍におけるある酒飲みの奮闘記」となった本書には、自宅でこそ楽しみたい酒飲みの知恵が満載だ。たとえ飲食店で飲めなくても、お酒の楽しみを諦めたりしない。「我々酒飲みははっきり言ってしぶとい」のだ。

 

市場食堂のカレーライスと瓶ビール

 

東京都知事による「外出自粛要請」の呼びかけから備蓄食材の買い物を済ませた著者の頭に、ある考えがよぎる。「よく考えたら我が家の棚の備蓄食材ゾーン、そもそも自分で把握しきれていないくらいあれこれつまってないか?」賞味期限間近のものは片付けてしまおう。ということで棚の整理をはじめた著者は急きょ、「備蓄庫整理晩酌大作戦」を決行することにする。

 

すると出てくる、出てくる缶詰の山。定番のツナ缶、サバ缶、焼き鳥缶など合計30個、晩酌するにはじゅうぶん過ぎる量の缶詰が見つかった。量もさることながら、内容も悪くない。仕事終わり、著者はベランダで晩酌の準備をはじめる。カセットコンロに焼き網を敷き、その上に開けた缶詰を並べる。缶詰にアレンジを加えていくあたりに酒飲みのこだわりを感じる。コーン缶にバターや醤油を足したり、昨年末に賞味期限を迎えたカレー缶には玉ねぎスライスを追加する。思いがけず発掘した「リッツ」を浸して食べると、お酒がすすむ。シメは「備蓄庫整理カレー」だ。

 

備蓄庫整理カレー

 

「なにも毎日贅沢をして暮らしたいわけじゃない。誰もがいろいろと悩みを抱えつつ、なんとかふんばって生きている。そんな日々のなかにふと、好きな大衆居酒屋で飲みながら心をときほぐす、つつましくも幸せな酒の時間がある。たったそれだけのことが、我々酒飲みにはかけがえのない喜びであり、明日を生きる力になる。」

 

限られた条件のなかでこそ、毎日をより貪欲に楽しんでやろう。著者の言葉からは、そんな情熱が伝わってくる。お酒を飲む人も、飲まない人もほんの少しのアイデアで毎日は楽しくなる。本書は思いがけず、そんな気付きを与えてくれた。

 

写真/著者

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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