「魔女」に「溶接ギャル」…「非会社員」にみるウィズコロナ社会での稼ぐヒント
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BW_machida

2022/02/04

連日ニュースは、「オミクロン」なる新たな変異ウィルスの脅威を声高に唱え続けている。日を追うごとに、まるで倍々ゲームのように増え続ける感染者数は、まさにうなぎ上りだ。果たして、今回の(すでに何度目か忘れてしまった)騒動は、いつになったら終息するのだろうか。明るいニュースを、聞かなくなった。

 

豪華客船とともに表れ、オリンピックを延期させ、ようやく落ち着いたかと思いきや、以前にも増す感染力をもって再々再度出現した新型変異ウィルスは、またぞろ大学進学を目指す若者たちと新社会人になろうとする新成年たちを直撃した。超高齢化と超少子化国家となった日本の、それでも社会経済を担おうとする若人たちが苦しむ様は、見ているこちらも暗澹たる気分になる。
そんな新社会人、新成人を憐れんでいる最中に、本書『「非会社員」の知られざる稼ぎ方』(光文社新書)を手に入れた。著者は、ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマンなど、多くの肩書を持つ村田らむ氏だ。
「非会社員」? この聞き慣れない言葉もさることながら、そんな「非会社員」たちの稼ぎ方とはいかなるものかと興味を掻き立てられた。

 

「非会社員」? 初めて耳にする言葉である。自営業者でもなければ、フリーランスでもなく、ましてや非正規労働者でもない。会社員に非ず……とは、いったい何をいわんとするのだろうか。会社員、サラリーマンでなければ叶わないことと言えば、大型ローンを組むこととクレジットカードを作ること(条件次第で可能だが)が思い起こされる。要は、組織に属さず、社会的信用を得られないまま何らかの事業を営む、そういう人たちのことだろう。

 

“魔女の店”こと「銀孔雀」のオーナー B・カシワギさん

 

大阪に少しだけ話題になっている“魔女の店”があると聞いて足を運んでみた。
若者の街、アメリカ村の中心にある三角公園の隣の雑居ビル5階に「銀孔雀」はある。店内は想像していたより明るくて、清潔な雰囲気。店内の至る所に商品が並んでいる。さまざまな願いをかなえるキット、魔女のほうき、魔法の杖、動物の頭骨、重厚そうな洋書の数々、宝石など装飾品、ろうそく、香水、などなどだ。どれも怪しげだけれど、だからこそ魅力的だ。思わず時間を忘れて見入ってしまう。(中略)
その店の奥には、かなり大柄な男性が座っていた。色とりどりの奇抜な髪型と服装が、店の雰囲気とマッチしている。彼が「銀孔雀」のオーナーであるB・カシワギさん(38歳)だ。彼は、男性だが“魔女”なのだという。そして、このお店以外にも、4店舗の店を経営する実業家でもある。

 

大阪で魔法をかなえるアイテムショップを経営する“魔女”の男性38歳、B・カシワギさんが登場するFile.2
魔法のアイテム……。と言われてもピンと来ないが、著者がレポートする品々を知れば「なるほど」と納得させられる。確かに、そのラインナップには心惹かれるものがある。しかし、だからと言って、そんな不思議グッズを扱う店が、21世紀の日本で成立するのだろうか。

 

「ちゃんと教えるから弟子になる?」と言われて、二つ返事で了承した。
そして、魔女のイベントを開催しつつ、1年間を通して魔女について学んだ。そしてB・カシワギさん自身が魔女になった。魔女は英語でウィッチ。そもそも男女の区別のない言葉だが、日本語訳では魔女以外の言葉がないので、男でも魔女と呼ばれる。
「魔女について学んでいちばん魅力的だったのは『魔女は儀式を作れる』という部分でした。日本の儀式(葬式、結婚式など)は形骸化しすぎていて、機能していない部分があるなと前々から思っていました」(中略)
もし、儀式そのものを作り出せるのだとするなら、当人たちが救われる儀式を作れるかもしれないと思った。そこで魔女のお店が作れないか考えた。(中略)
「どうしても、魔法=オカルト=インチキとイメージされると思いますが、オカルトは科学と真逆な存在ではないんですよね。基本的には一緒なのですが、オカルトには隠れていて見えない部分があるんです」
つまり「なぜ効くか説明があり、確かに効く」のが科学ならば、「なぜ効くかわからないが効く」のが魔法というわけだ。

 

本書によれば、このB・カシワギ氏は「銀孔雀」の他に、レストランバーやお笑いのライブハウスなど多店舗展開し、現在はシーシャバーを展開するなど立派な実業家である。ただし、そのきっかけは、まるで思い付きのような突拍子の無さに満ちている。しかし、それにも増す人脈形成や時代の先読みなど、組織に属さない人間ならではのフットワークとバイタリティを持った人物のようだ

 

「溶接ギャル」こと、粉すけさん(26歳)

 

本書には、不登校からトップブロガーになった男とか、関西電力を辞めて大坂一のラーメン屋を作った男や、元傭兵や、富士の樹海に民宿を作った男など、そうそうたる「非会社員」が並ぶが、中でもひと際異彩を放つのがFile.12の粉すけ氏だろう。

 

粉すけさん(26歳)は「溶接ギャル」を名乗る、板金業を手掛ける「勝倉ボデー」の女社長だ。勝倉ボデーは正式には板金塗装業であり、自動車やバイクの壊れた部分を修理したり、カスタムしたりするのが主な仕事だ。福井市にある勝倉ボデーのガレージには、修理やカスタム作業の途中の自動車やバイクが並んでいて、その周りにはガスバーナーをはじめとするさまざまな道具や塗料が並んでいた。そんな職場の中でキビキビと働く粉すけさんは恰好よかった。

 

本書に掲載されたモノクロ写真からも、「板金ギャル」を名乗る粉すけさんの、明るく染め上がったロングヘアーやド派手メイクにリップピアスなど、今すぐセンター街を闊歩しても何らの違和感もないギャルぶりが溢れ出ている。

 

中学校に行くと、特に何か問題を起こしたわけではないのだが、毎日のように先生に怒られた。
「親がさすがにおかしいと思って、私を病院に連れて行きました。そうしたらADHD(注意欠如・多動症)だって判明しました。感情のコントロールができなかったり、落ち着きがなかったりするのは、病気のせいなんだってわかりました。両親からは、『今まで怒りすぎて悪かった』って謝られました」
ただ、粉すけさんはすでに学校に行くのがほとほと嫌になっていた。学校に行かなくなると、似たような境遇の先輩たちに声をかけられた。(中略)
もちろん高校入試もせず、中学校の卒業証書は母親が学校からもらってきた。高校生の年齢になってからは、ほとんど毎日ゲームセンターに入り浸っていた。

 

記事を読めば、彼女が典型的なドロップアウト組であることがわかる。しかしそんな彼女は、その後、板金塗装の世界に入り、その働きが評価され、全国溶接技術協議会に2年連続で出場したりしている。そして、なんと24歳で独立し、「勝倉ボデー」を立ち上げたというから驚きだ。

 

最近では「溶接ギャル」としてみんなにもてはやされるようになってきた。女性が板金塗装業をしていることを評価する人、ギャルが好きな人、そして溶接の技術や値段の安さを評価する人から、それぞれ仕事が舞い込んできている。「安全靴の商品開発」「大手量販店とのコラボ商品開発」「アパレルブランドのモデル」など、板金業とは関係のない仕事も増えてきている。

 

まさか(と言っては失礼か)、あのセンター街を闊歩しているギャルに、こんな才能が秘められているとは……。正直、一見しただけでは信じられないものがある。
そんな、メジャーなニュースが取り上げない、意外性抜群の隠れたニュースバリューを見つけ出すことこそ著者の真骨頂なのだろう。

 

本書『「非会社員」の知られざる稼ぎ方』(光文社新書)は、当たり前ではない生き方と、その数ある成功例を紹介することで、はびこる閉塞感を払しょくする開明の一冊だった。是非とも、新社会人や新大学生たちに読ませたい。

 

文/森健次

 

「非会社員」の知られざる稼ぎ方
村田らむ/著

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