BW_machida
2022/04/13
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2022/04/13
知らなかった。火星にも、四季があったなんて。本当だろうか。火星には、地球の最高峰エベレストの3倍も高い山があるという。地球よりも小さい、あの惑星にこれほどダイナミックな一面が隠されていたなんて、驚きだ。
宇宙航空研究開発機構などの研究者が火星を案内してくれる本書は、遊び心のある構成となっている。火星の解説にはじまり、火星の歴史を振りかえりながらの聖地巡礼プランの紹介、標高2万メートルの登山コース。さらに足を伸ばして、火星の北極と南極領域へ。火星旅行が待ちきれない人のために「地球上の火星アナログサイト」なるものまである。もし火星旅行を予定しているなら、ガイドブックは必須だろう。だから、タイトルは『火星の歩き方』。
人類は、どうやら本気で火星を目指しているらしい。2021年は火星探査が歴史的な盛り上がりをみせた年だった。アラブ首長国連邦の探査機ホープ、NASAのパーシビアランス、中国の祝融号がつぎつぎに火星に到着し、ドローンのインジェニュイティが火星での飛行を成功させた。はるか遠い昔から人びとは空を見上げて宇宙に想いを馳せてきたが、21世紀の私たちは、すでに火星の全域にわたる地形を把握しているし、どんな鉱物があるのかも知っている。
火星の自転周期は24.6時間で、1日の長さは地球に近い。しかし公転周期は687日と、地球の約2倍になる。地表は砂漠のように砂で覆われ、竜巻が起こることもある。二酸化炭素を主成分とした大気があって、なんと地球と同じように四季がある。ただ、季節がひと巡りするには地球の時間で約2年かかるそうだ。45億年という果てしなく長い時間を経て、この惑星の環境は少しずつ変化していった。かつてはここに、海や湖、河川まであったらしい。
「薄い大気のため、火星は十分な温暖化効果を得ることができません。平均気温はマイナス60℃程度と、地球の平均気温(15℃)よりもぐっと低い値を示します。また、大気の薄さにより、熱慣性が小さくなる(つまり、温まりやすく冷めやすい)ため、場所や季節による温度変化が大きく、表面温度は極地域の冬に経験する最低気温が140℃なのに対し、赤道地域の夏に経験する最高気温は35℃程度と、その差は170℃以上に達します。」
火星では、夕焼けも楽しめる。ただ、この地球型惑星の夕焼けは、青白い。地球の夕焼けが赤いのは、大気が波長の短い光りを強く散乱し、波長の長い赤い光りが遠くまで到達するから。しかし、火星の大気は地球よりずっと薄い。可視光の波長と同じほどのサイズをもつダスト(砂粒)は赤の波長を強く散乱させ、地表に届きにくくしてしまう。だから夕焼けは青白く見えるらしい。
17世紀、宇宙が今よりずっと遠かった時代にオランダの画家ヨハネス・フェルメールは天球儀に手を置いた男の絵を描いた。それから2世紀、19世紀のヨーロッパでは冒険だった世界一周が旅行になった。そう遠くない未来では、火星が旅行先になっているかもしれない。
『火星の歩き方』
臼井寛裕 野口里奈 庄司大悟/著
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