『名探偵は誰だ』著者新刊エッセイ 芦辺拓
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BW_machida

2022/05/10

懐かしくもおなじみの世界で徹底的に新しいミステリを

 

「芦辺さん、どうもあなたは『作家』というものへのイメージが古いのじゃないか」と古なじみの編集氏に言われました。何でも、今どきの小説家は何歳になったとか何冊目の本が出たからと言って記念文集や自選作品集は出さないし、そもそも連載小説で必ず“ヒキ”をつけたりはしない。あと「視点」を厳正に守らないと売れっ子にはなれませんよ、と。

 

え、そうなんですか? ミステリ作家となったからには、ジュヴナイルと捕物帳もしくは伝奇チャンバラを書くもんであり、あとテレビの原作原案やアニメ脚本、そして舞台の推理劇も手がけねばと思って、幸い実現することができたのですが、どうも違っていたようです。やはり戦前の大衆文学と六〇年代までの娯楽映画ばかり見てたのがいけなかったか。

 

かといって、現代作家らしく学園ミステリとラブコメとライトノベル(これもちょっと違う?)の依頼を待ってても来る気配がないので、ここはもうわが道を貫くことにしました。

 

外資でもチェーンでもビジネスでもない小さなホテルがそこここに残り、グランドキャバレーのネオンは輝き、ヤクザではなくギャングが跳梁し、安アパートは個性豊かな住人に満ち、怪盗や名探偵、そして殺し屋の伝説がほのかに残る懐かしくもおなじみの物語世界を描いてやろう。

 

そのかわり、ミステリとしては徹底的に新しく、これまでにないものに。ホテルの宿泊者からただ一人の非殺人者を、アパートの住人から逮捕予定者を、ナイトクルーズの乗客から伝説のガンマンの標的を選び出し、おばあちゃんの平穏を乱すものは、雪の山荘の生き残りは、怪盗は、探偵は誰なのかを問いかける―そんな、ひねくれきってはいるけれど正統本格をめざしたのが今度の『名探偵は誰だ』であり、これでなお芦辺拓を古臭いというなら言ってみろ! なのです。もっとも、こうした趣向づくし技巧まみれの一冊を創ることもまた、ミステリ作家の伝統に則したものなのですけどね。

 

『名探偵は誰だ』
芦辺拓/著

 

【あらすじ】
そいつはいったい誰なんだ?「ホテルの客で唯一、自分を殺そうとしていないのは?」「豪華客船に乗り込んだ俗物たちの中で殺されるのは?」「雪の山荘が爆破される緊急事態に生き残ったのは?」多彩な7つの設定で魅せる、奇妙奇天烈、変則フーダニットの見本市。

 

芦辺拓(あしべ・たく)
1958年、大阪府生まれ。1990年、『殺人喜劇の13人』で第1回鮎川哲也賞を受賞。『奇譚を売る店』『時の審廷』『異次元の館の殺人』『大鞠家殺人事件』など著書多数。

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