年齢を重ね、失敗して「自分のもの」を手に入れる|岡本敬子 『私の定番』
ピックアップ

ryomiyagi

2022/12/22

 

毎日のルーティンに欠かせないつげの櫛。お守りのような存在のパール。器、カトラリー、筆記用具、日々のティーブレイクのお供にしているスイーツまで。著者の愛する定番品を眺めていると、ものには持ち主の暮らしや考えかたが表れるのだなと実感させられる。ものはときに、その人の生き様を物語ることもある。なにを大切にし、どのような時間を過ごし、どんな思い出を生きてきたのか。

 

本書で紹介されるのは、服飾ディレクターである著者が自身の直感と経験を信じて選び抜いた自分だけの定番品。年齢と失敗を重ねて、その時々の気分で手に入れた自分だけのスタンダードだ。だから、万人受けするアイテムばかりとは限らない。

 

「誰かに決められた『定番』なんていうものは自分にとってはしっくりきません。ひとりひとり『定番』というものが違うからこそ見ていて楽しいし、着ていて面白いのではないかと考えています。」

 

 

その言葉通り、服、ジュエリー、雑貨に至るまでどのアイテムにも選び抜かれた理由がある。気に入れば色ちがい、素材違いで集めてしまうというサングラス。ドキュメンタリー映画からスタイリングのヒントを見つけたストローハット。銀幕のスターに魅了されて手に入れたチャイニーズカラーのドレス。生活が変化したことでメインアイテムになったキャップ。スタイリングのバランスを取りやすくしてくれるフェイクファー帽子。気分を変えてくれるレース素材。定番アイテムのシルクパンツは、大人の女性の仲間入りをした思い出と繋がっている。

 

オシャレは我慢なんて言葉も聞くけれど、着回しや使い心地にもこだわっている。例えばワードローブの定番であるワンピースはロングタイプを。なおかつリネンやシルクといった軽い素材を選ぶことが多いという。ダウンベストは重ね着を楽しみたいからブランドより軽さを重視。歩いて移動することが多いから、足もとはスニーカーやスポーツサンダル、柔らかい皮のローヒールなど歩きやすさを重視した靴が定番だ。これならいくら歩いても靴擦れに泣かされることはない。

 

著者はまた「定番」を自分の価値基準で決める楽しさを説く。定番がその時々の気分で変化することを恐れないように、固定観念にとらわれてはもったいないとも語る。

 

「たとえ答えを書いて、誰かがその通りにやったとしても、それはただのまねっこになってしまうから。お手本にしてそれを自分らしく落とし込むのなら全然いいと思うのだけれど。みんな違っていいんだよね。」

 

自分が何を好きなのか、自分が何をよく使っているのか。自分の暮らしを自分で考えるための後押しをしてくれる一冊だ。

 

『私の定番』
岡本敬子/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を