話題騒然の赤裸々エッセイ『作家 超サバイバル術!』単行本刊行記念 特別鼎談 中山七里 知念実希人 葉真中顕
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ryomiyagi

2023/01/09

左から 葉真中顕さん、中山七里さん、知念実希人さん

 

本誌連載時より、文芸業界をざわめかせた禁断の連載がついに単行本化!
作家として長く続けていくための、それぞれの生存戦略をあますところなく綴った三名が、改めて「作家」業の実情を語ってくれました。

 

―連載終了から少し時間が経ちましたが、単行本化ありがとうございます。「新人作家に向けた生き残り戦術エッセイを書きませんか」という編集部の依頼に応えていただいた当企画ですが、改めてどのような本になりましたか。

 

知念 今、文芸界は厳しい。特に新人に厳しいです。僕がデビューした十年ほど前に比べても明らかに状況は変わってきていて、どうやって作家として生き残っていけばよいか、というのがなかなか難しい。ただ、この文芸界のルール、実情を知らないことで間違ってしまい、生き残れない新人がちらほら見受けられるんです。そこで、ひとつの教科書のように、文芸界はこういうものだよ、と示せるものがあるといいのかなと。それぞれどうやったら生き残れるかという自分なりのノウハウを三者三様に持っているはずなので、なにかしら参考になればと思いますね。

 

中山 この世界は新人一年目に対するサポートがほとんど全くといっていいほどないんです。そこで、三人ともデビュー版元も違えば作風も違って土壌も違う。年齢も違えばジャンルもちょっとずれています。この三人が話してもし共通項が出てきたならば、正解ではないかもしれないけど間違いじゃない。それをくみ取っていただけたら一つの教科書のような、財産になるんじゃないかと思います。

 

葉真中 共通項は大事だなと思いますね。三人が稀に一致している時があって。たとえば文芸界は厳しい椅子取りゲームだよとか、結局作品本位にならざるを得ないとか、直接生き残りに関係ないけど、確定申告は税理士にまかせろとか。でも「これをやっていれば大丈夫」という安心材料はない。生き残りの指南書がないのは最適解がないからなんですよね。あくまで必要条件でしかなくて十分条件ではない。そこで三人で分担したことによってある程度の多様性を担保できたかなと思いますね。

 

スピードとクオリティの両立は

 

―具体的にどんな内容が書かれているか教えてください。

 

葉真中 私自身ができないことですが、やっぱり早く書く、たくさん書くというのは、生存率を上げる一つの手法だなと思いますね。

 

中山 宝くじをたくさん買うということですね。

 

 

知念 僕は特にデビュー二~三年目の頃に、たくさん書いてたくさん出して、たくさん平台にのって名前を覚えてもらうというのが大事だと思います。心理学で言う単純接触効果ですよね。この作家の名前よく見るなと。

 

葉真中 速筆が利く方、量産ができる方というのは、それだけでひとつ大きい武器を持っていると思っていいですよね。書くスピードはある種の才能に近い。ただ、もちろん早く書けても一定のクオリティを保っていなければ本にならないので、結局、それぞれ与えられた武器でなんとかやっていくしかないのかなと……。

 

知念 クオリティとスピードを両立できる、自分に合った方法を探さないといけないですね。僕は三ヶ月に一冊くらいがちょうどいい。四ヶ月かけてもクオリティは上がらないなと経験で分かってきました。七里さんは二ヶ月に一冊……。

 

中山 僕はどれだけ量産してもクオリティが変わらないことがデビュー時から分かっていたので、死ぬほど書こうと思いました。

 

葉真中 普通死にますけどね(笑)。

 

“やる気”を出すには

 

知念 僕は最初の頃十五分で何文字書けるかをストップウォッチで計っていました。五、六百文字は書けるんですよ。それを色々パターンを変えて試してみて、今は四十五分がっつり書いて十五分休むという形になりました。そうすると十五分単位で書いていた頃より一・三倍くらい書ける。

 

葉真中 ポモドーロ・テクニックという有名なメソッドですね。それは確かに効率的で、私も切羽詰まったらやります。でも、どうしてか普段からはやらない。これがやっぱり人間の、私のダメなところなんだけれども、タイマーかけたらやれるな、やっちゃうな、俺は、と思うわけ。

 

中山 やっちゃえばいいじゃないですか(笑)。

 

知念 よく分かんないぞ(笑)。

 

葉真中 いや、これは指南役の言う言葉じゃないんですが、いかにこのサボり心と闘うかが重要だと思っていて。

 

知念 僕も最初の頃は一日だらだらしてネットサーフィンしかしていない日があったりして、終わったあと今日は何の意味もなかったな、とすごく苦しかったんです。始めるのにはエネルギーがいるので。だからそれを完全に儀式化、ルーティン化しました。朝、仕事場に行って、コーヒーを一杯入れたらストップウォッチを押す、というのを決めたんです。押したらもうやるしかない。止められないので。

 

葉真中 知念さんのおっしゃるメソッドは百パーセント正しい! ルーティン化。何しろやり抜く力はルーティン化によって身につく部分がある。でも、ルーティンを発動したら、やってしまう。

 

一同 やればいい(笑)。

 

葉真中 すごく簡単なルーティン化で、やり始めの一番高い心の負荷を超える、というのを自分も何回かやってみたことはあるんです。でも、サボり心の怖いところは、そのルーティンをやるところに新たなハードルが築かれていくという……。いかにして自分の生活や気持ちをコントロールしていくか、というのはやっぱり大事ですね。

 

 

中山 だから僕は逆に二十四時間全部書くことに費やして、合間に食事やトイレ、お風呂を入れようとしたんです。それだったらここから切り替えて書くぞ、というのがいらないから。

 

知念 納得できないよ(笑)。論理的には合ってるのかもしれないけど、人間として間違っている(笑)。

 

葉真中 じゃあ、中山さんにルーティンはないわけ?

 

中山 ないです。

 

知念 ただずっと書いているだけ。

 

執筆は頭脳労働か、肉体労働か

 

―書いている合間に、いつご飯を食べようかな、みたいな感じですか。

 

中山 ご飯も身体が求めたときに食べる。一日一回食べるときもあれば、二日も食べなかったこともある。でもそれはもともと体力があるので。だから、物書きに必要なものは何をおいても、まず体力。

 

知念 そうですね。やっぱり体力がないと続きませんわ。

 

葉真中 身体が資本なのは、そうかもしれない。結局体力のなさが気力のなさに繋がるような気もします。小説は頭脳労働だと思われがちだけど、感覚としては肉体労働だなと思うし、やっぱり一日書くと相当消耗しますよね。

 

知念 消耗します。

 

中山 消耗します。でも結局プロットを作るのに八割の労力を必要として、執筆は二割くらいで終わるんですよ。

 

知念 僕も小説を作る、考えるのが大好きなんですよ。プロットを立てて、いろいろ設計していって、こういう展開にして、と考える。でも書くのは大嫌いなんです。単純作業だから。頭の中で流れている映像を文字に落とすだけなので、誰か俺の頭の中の映像を文字にしてくんない? と思っているんですよ。

 

中山 それをしてくれるのなら一億円で買いますよ、本当に。だから結局量産の秘訣というのは、プロットにかける時間をいかに短くするかなんです。

 

プロット作りはいつ? インプットは大量に

 

―プロット作りについても、さきほどのようなルーティンはあるんですか?

 

知念 ないですね。いつ出るか分からない。ぼけっとしているとき、リラックスしているとき、身体を動かしているときとか……ふと何かを思いついてメモを取って。それを時々見てだんだん広がっていく、という感じです。

 

中山 僕はデビュー時から量産しないと生き残れないと思っていたので、物語のパターンをデビューして数週間で百通りは作ったんですよ。あとは版元さんからのリクエストに応じてそのひな形を肉付けしていく。そうするとプロットにかかるのは最長でも三日。

 

葉真中 すごいな。職人ですね。

 

知念 やっぱりみんな物語を大量にインプットしていますよね。それで頭の中にひな形が大量にできている。

 

 

葉真中 大量インプットが必要だ、というのは『作家 超サバイバル術!』のなかでも三人の一致した意見でしたよね。

 

知念 ただ、大量にインプットしたものを単に楽しむんじゃなくて、そこから分解して構造を一つ一つ意識的に分析しますね。なんで面白かったのか、面白くなかったのか、と考える。そういうテクニックをみんな身につけていますよね。

 

葉真中 作家になりたいと思っている人がいたら、まずは小説読もうぜ、映画見ようぜ、漫画読もうぜと。フィクション作りたいならフィクションに触れる。当たり前だけども大切なことだと思います。書きあぐねている人は、とりあえずなにか読んでみるといいんじゃないかなと。

 

チャンスは世界へ

 

―文芸界の現状について思うところをお聞かせください。

 

中山 本を売るというのは商業活動なので、どうしても景気に左右されちゃうんですよね。バブルのときはどんな本でも出せた。だから新人が生まれやすかった。不景気になるとどうしても二極化してしまい、どんどんスカイツリーのようになっていく。一番上に一人、ここに二人、ここに二人、ここに二人、一番下に二千人とか。

 

知念 新人の中で書ける人にチャンスを与えきれていないというのが、今の文芸界に構造的な問題としてあるんですよね。ただ、確かに日本の文芸界が厳しいのはあるけれども、物語というのはこれまでになく求められている。あらゆるチャンスが転がっています。漫画はもう日本だけじゃなくて世界がマーケットですから、日本の物語というのは世界に広がるはずなんですよ。だから厳しいなかでも実はすごくチャンスのある時代でもあるのかなと思いますね。

 

葉真中 この場でいうのもあれですが、紙の出版じゃないあり方で、裾野自体が広がる余地というのは必ずしもないわけではない。チャンスはあるんだと思いますね。いつどこで芽が出るかは誰にも分からない。そうすると、やっぱり諦めないことが重要ですね。諦めて筆を折っちゃったらノーチャンスになるのは間違いないので。

 

―まだまだ尽きない濃密な話はぜひ、『作家 超サバイバル術!』単行本にてお楽しみください。お三方、ありがとうございました!

 

中山七里
(なかやま・しちり)
1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。’10年同作の単行本で作家デビュー。驚異の執筆スピードで’20年の作家デビュー10周年には単行本を12ヶ月連続刊行し、業界を驚かせる。著作数はすでに60冊以上。「どんでん返しの帝王」の異名を持つ。代表作に『贖罪の奏鳴曲』『ドクター・デスの遺産』『作家刑事毒島』『能面検事』『護られなかった者たちへ』ほか多数。

 

知念実希人
(ちねん・みきと)
1978年、沖縄県生まれ。2011年「誰がための刃 レゾンデートル」で第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。’12年同作の単行本で作家デビュー。’15年『仮面病棟』で2015年啓文堂大賞(文庫部門)受賞。’18年『崩れる脳を抱きしめて』で第8回広島本大賞(小説部門)、第4回沖縄書店大賞(小説部門)受賞。第15回本屋大賞第8位。’20年『ムゲンのi』で第6回沖縄書店大賞(小説部門)受賞、第17回本屋大賞第8位。’22年『硝子の塔の殺人』で第19回本屋大賞第8位。

 

葉真中 顕
(はまなか・あき)
1976年、東京都生まれ。2013年「ロスト・ケア」で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。同年、同作の単行本で作家デビュー(別名義での著作物あり)。
’15年『絶叫』で第36回吉川英治文学新人賞候補、第68回日本推理作家協会賞候補。’19年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞受賞、第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞。’22年『灼熱』で第7回渡辺淳一文学賞受賞。

 

『作家 超サバイバル術!』
税込1,650円

 

【あらすじ】
作家への登竜門“新人賞”は数あれど、デビュー後作家として本を出し続けるのは至難の業と言われています。今をときめく人気作家三人が、それぞれの作家生存戦略をあますところなく綴った赤裸々エッセイ! (漫画とイラスト:佐藤青南)

 

【目次】
1 作家と新人賞
2 作家とおカネ
3 作家と映像化
4 作家と執筆スタイル
5 作家と編集者
6 作家とインプット
7 作家とSNS
8 作家と戦略
9 作家と文学賞
10 作家と営業
特別鼎談

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