41種類の青から最高の青を!アメリカで使われるデータ分析術
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写真:AFLO

 

ビジネス戦略を立てる際にデータ分析手法を使うことは、アメリカのビジネス界では常識になっています。

 

例えば、ヤフーで現在最高経営責任者(CEO)として働くマリッサ・マイヤー氏は、前職のグーグル社員時代、ある有名なRCTを行っています。RCTとは、AとBという2つのグループを比較するという意味で、ABテストと呼ぶこともあります。

 

グーグルのようなウェブ検索エンジンでは、何かを検索すると検索結果が一覧として出てきます。検索エンジンを提供する会社は、検索結果ページに出てくる広告料で収益を上げています。そのため、収入の鍵となるのはどれだけ多くの人が検索ページを訪れてくれるかと、訪れた人がどれだけの確率で広告をクリックしてくれるか、という点です。

 

マイヤー氏はRCTを用いて最適なウェブサイトのデザインを検討しました。その実験で検討した内容は、文字のレイアウトから始まり、表示する検索結果の件数など多岐にわたります。

 

中でも有名なRCTは、検索結果として表示されるリンクの「青の色をどの青にするか」という実験です。著者のようなデザインの素人から考えると、青は青でしかないような気がしてしまうのですが、ウェブサイト上で表示できる青の種類は実はたくさんあるのです。彼女は、ウェブデザイナーを説得して、41種類の青をRCTによって試しました。

 

グーグルの検索エンジンを利用した人に対して、41種類からランダムに選んだ青を見せ、どの青が一番多くのクリックを生むかを突き止めたわけです。

 

皆さんもグーグルの検索エンジンを開いてみてください。そこに出てくる青は、おそらくRCTを経て突き止められたビジネス戦略上の「最高の青」なのかもしれません。もしくは、グーグルがもっと良い色を発見したいという目的で新たなRCTを行っている場合、あなたが見せられている色は実験的な色なのかもしれません。

 

次は、アメリカのオバマ前大統領が選挙の際に行ったマーケティング戦略を見ていきましょう。

 

アメリカ大統領選では、どれだけ多くの支持者から支援金を集められるか、という点が選挙での勝敗を大きく左右します。そのため、各候補者の選挙陣営は様々な戦略を練って支援金集めを試みます。

 

2008年の大統領選において、オバマ陣営はIT系企業大手のグーグルからダン・シローカー氏を引き抜き支援金集めの戦略を任せました。シローカー氏はグーグル勤務時代に、RCTを用いたデータ分析を使うことによって最適な広告戦略を打ち出す、という経験を積んでいました。

 

シローカー氏は、オバマ候補のウェブサイトのデザインを工夫することで、ウェブサイトを訪れた人の多くにメーリングリストへ加入してもらいたいと考えました。多くの人が自分のメールアドレスを登録してくれれば、そのアドレスへ送信するメールによって効率的に支援金を集められるためです。

 

オバマ陣営は、まずウェブサイトのトップページに表示する画面を6通り考えました。オバマ候補が支援者に囲まれている写真、オバマ候補の家族写真、真剣な眼差しの顔写真、また、オバマ候補が行った有名な演説ビデオなどです。

 

さらに、オバマ陣営はトップページに表示するボタン(クリックするとメールアドレスを書き込むページに移る)にも仕掛けが必要だと考えました。

 

選挙チームは、Sign Up(登録しよう)、Sign Up Now(今すぐ登録しよう)、Learn More(もっと知ってみよう)、Join Us Now(今すぐ参加しよう)という4通りのメッセージを考えました。

 

つまり、6通りの画面案と4通りのメッセージ案があったので、合計で24通りの組み合わせが作られることになります。ウェブサイトを訪れた人には、24通りのデザインから「くじ引き」によって選ばれた1つのデザインが表示されました。31万人が24通りのグループに均等に振り分けられたので、それぞれのグループには1万3000人ほどが振り分けられたことになります。

 

オバマ選挙チームのメンバーは、「オバマ候補が支援者に囲まれている写真」と「Sign Up」の組み合わせが最良ではないかと考えていましたが、ふたを開けてみると、平均登録率が一番高かったのは、「オバマ候補一家」と「Learn More」という組み合わせだったのです。

 

この実験結果を受けて、オバマ陣営は平均登録率が第1位であった画面案を採用し、実際の選挙活動で使用しました。シローカー氏の試算では、AB実験で得られた最適な画面を採用したことによって、約6000万ドル(72億円)の追加的支援金が集められた、ということです。簡単なウェブサイト上での実験が、大きな影響を及ぼした例と言えます。

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