スーパーエリートに「抗わない」のが凡人の処世術?『the four GAFA 四騎士が作り替えた世界』

今泉愛子 ライター

『the four GAFA 四騎士が作り替えた世界』東洋経済新報社
スコット・ギャロウェイ/著 渡会圭子/訳

 

 

GAFAとは日本でもおなじみ、テクノロジー業界の4強、Google、Apple、facebook、amazonを指す。これら4企業が世界をどう変えたのか、これからどう変えていくのかを論じたのが本書だ。

 

著者はこれまで9つの会社を起業し、大学院のMBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教えることもあるビジネスマン。実務経験が豊富とあって、本書の中身はかなり分析的で密度が高い。4強のなかで生き残るのはどこか。4強に続くのはとこかなど、明晰な解説が続く。

 

だが、わたしが一番面白く読んだのは、最後の第10章だ。本書を手に取ったのは、GAFAに対する好奇心からだったが、GAFAのすごさを、あるいは弱みを知ったところで、わたしの人生は何も変わらない。読後も彼らが開発したテクノロジーの1利用者として、記憶力の欠如をGoogleで補い、facebookで友だちの投稿にせっせと「いいね!」を押す毎日が続くだけ。彼らの戦略のもとで生きることに、もはや選択の余地はない。

 

ところが第10章で著者は、ぐんと読者に近づく。デジタル技術は、企業にとってだけでなく人間にとっても勝者総取りのシステムゆえ、現在は超優秀な人間にとっては最高の時代と言われている。

 

言い換えれば、凡人にはひたすら厳しい時代だが、著者はこの章で、十人並みの人間がどうすれば生き残ることができるかを解説する。

 

この手のノウハウ本は巷にあふれているが、心理学者が説く成功の秘訣は、パターン化されすぎていることが多いし、成功者が説く成功の秘訣は、彼の成功のうち偶然や幸運が占める割合を一切考慮していない。

 

ところが著者のアドバイスは、とても実利的だ。会社の辞める時は不満を口にしないこと(まわりの人はあなたが会社で何をしたかより、どんな辞め方をしたかを覚えている)、幸運の受け止め方(運はやがて平均に回帰すると覚悟する)、好きなことでなく得意なことでキャリアを築くことの大切さ(税理士を夢見る子どもはいないが、一流の税理士はルックスのいい伴侶を見つけることができる)など、一緒に飲みに行ったかのような親密さで、アドバイスする。

 

読んでいると、これからの世界で生き残っていくためには、どう振る舞うか、何を発信し、何を選択するかがとても大切だとわかる。

 

スーパーエリートには遠く及ばない凡人の世界では、スキルの違いはそれほど大きくない。だめライターではないが、群を抜いてうまいわけでもないわたしのスキルがこれから飛躍的に伸びることはないだろう。

 

それでも工夫すればなんとかなる。スキルを含めた総合力で勝負すればいいのだ。

 

まだまだ戦える! GAFAのすごさにシラけた気分になりかかったが、これからの青写真がなんとなく見えてきた。

 

『the four GAFA 四騎士が作り替えた世界』東洋経済新報社
スコット・ギャロウェイ/著 渡会圭子/訳

この記事を書いた人

今泉愛子

-imaizumi-aiko-

ライター

雑誌「Pen」の書評を2002年から担当。インタビューや書籍の構成ライターとしても活動している。手がけた書籍は出口治明『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、太田哲雄『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社)など。ランナーとして800mで日本一になったこともあり、長いブランクを経て、再び日本記録に挑戦中。


・Twitter:@aikocoolup
・オフィシャルブログ「Dessert Island」:http://aikoimaizumi.jugem.jp/

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