2019/01/10
藤代冥砂 写真家・作家
『ビジネスアスリートが実践する最強のリカバリー術』光文社
竹下雄真/著 本間龍介/監修
科学と宗教、そのどちらにも常に興味津々なのだが、宗教もしくは信仰には解釈の多様性を追求する愉しみがあるのに対し、科学の愉しみは、日進月歩に更新される理論を自身に蓄積された知の中で、相関的にアップデートしていくことにある。
科学の中でも、健康に関する分野は、日常生活の幸福度に直結するので、新刊書の帯や顔は、なんとなくインプットしている。
「最強」と名がつく健康本の勢いは、まだ衰えを知らないようで、欧米人の写真がカバーを飾るスタイルは、未来において振り返れば、確実に時代を感じさせてくれるはずだ。
既視感はあるものの、その風通しの良さと舶来感が醸し出すなんとなくの信憑性には、やはりつられてしまう。
欧米人の写真がカバーとなっているものには、実は日本人の著作も多く、今回の『最強のリカバリー術』はそれに当たる。
健康を損なう原因を除くための本とは決定的に違うことをタイトルが述べているように、リカバリーに特化した本書は、すでに独自である。
原因を除ければ、それに越したことはないが、生活環境や意思の弱さなどによって、なかなか上手くいかない。それは、数々の健康本を手にした方なら経験済みだと思う。
ならば、次に考えるべきは、リカバリーである。慢性的な疲労とどう付き合い、蓄積しないためのノウハウが詰まったこの専門書は、とても整理が行き届き、読みやすく解しやすい。
パーソナルトレーナーとしての現場で得た知見と科学的な知識をもとに語られるリカバリー術は、とてもシンプルで実行する気にさせられる。
そもそもなぜ疲労は発生し蓄積されてしまうかという初歩的な疑問に対応する科学的な説明も、多すぎず少なすぎずで読者に寄り添っているし、副腎疲労を疲労の根本とする説明には、ふむふむなるほどである。第二の脳といわれ、脳の指示がなくても独自に働ける腸を整えることをリカバリーの鍵とする部分にも深く納得であり、するすると新たな知識として入って来る様は、この読書自体が、すでにリカバリーの入り口であるとすら思わせてくれる。著者は意識していないかもしれないが、体内に吸収しやすいサプリメントのようである。口から入り、まさに腸で吸収されるような知識なのだ。
本題であるリカバリー術は、3ステップからなり、次のとおりである。
1 悪いものをいれない
2 解毒する
3 良いものをいれる
あっけにとられるぐらいにシンプルで、当たり前のようですらある。この3ステップを、平坦な道を手を引き歩くような解説でリカバリーへの道へと誘ってくれる。読後は、ああこれならやれそうだ、という雰囲気にさせてくれる。決して一大決心を求められるわけでもなく、ふむふむなるほど、を繰り返しつつ。
健康に関する本の類は、行き過ぎると信仰の本になってしまいがちだが、本書にはその一線を越えずに軽やかな足取りでエッセンスを心地よく差し出してくれている。
良質の禅の入門書のような雰囲気すら感じるのは私だけだろうか。
ー今月のつぶやきー
沖縄本島の北部やんばる地区で開催中の第2回やんばるアートフェスティバルに参加中です。沖縄の少年少女を撮り下ろした作品たち。平置きされたプリントに地元の海岸で採集した石を乗せ、人と土地との結びつきを表現しました。
『ビジネスアスリートが実践する最強のリカバリー術』光文社
竹下雄真/著 本間龍介/監修