前半戦のベストゲーム。森友哉と甲斐野央の歴史に残るマッチアップを見よ!
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

 

早いもので日米ともに夏の祭典・オールスターゲームが終わり、後半戦が始まった。

 

今日は、お股が前半戦のハイライトだと感じた試合を振り返り、野球の面白さ、日本野球のレベル上昇、エンターテインメント性の高さについて書いてみたい。

 

◆5時間超の「ルーズヴェルトゲーム」

 

7月8日、東京ドームで行われたソフトバンク対西武。オールスター前の9連戦の最中、大阪から移動して1試合のみ東京で行われた「鷹の祭典」が今季のベストゲームだろう。前半戦だけでなく、シーズンを通してもベストになるかもしれない。将来にも語り継がれる伝説の一戦となった。

 

大の野球好きで知られたアメリカのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が「野球は『8対7』で決着する試合が一番面白い」と言ったことから、点を取られては取り返す白熱したゲームが「ルーズヴェルトゲーム」と呼ばれるようになった。

 

ソフトバンクが若手捕手、栗原陵矢の犠牲フライによってサヨナラ勝利したこの試合。ハイレベルな手に汗握る、今季最長タイである5時間21分の「ルーズヴェルトゲーム」に、平日開催にもかかわらず東京ドームの観客は最後まで帰ることはなかった。

 

試合はソフトバンク優勢で進んだ。

 

今季好調のデスパイネや36歳になってもさらなる打撃の進化を見せる松田宣浩の一発で、着実に得点を積み重ねるソフトバンク。骨折や不振で前半戦は打率1割台と苦しんだ上林誠知もレフトスタンドへホームランを放ち、5点リードと楽勝ムードが漂い始める。

 

ソフトバンクの先発、ミランダもチェンジアップを効果的に使った投球で好投。ただ、5点リードで僅かに気の緩みがあったか、スランプに陥っていたホームランキング・山川穂高に甘い変化球を打たれ、28打席ぶりとなる安打をレフトスタンドに運ばれる。

 

これで山川を起こすことになってしまったのは痛恨だった。人間だから難しいことだが、こうした僅かな気の緩みが後々響くことになる。

 

疲れの出たミランダの後を受け、今季途中からリリーフに回っている武田翔太や覚醒した高橋純平が登板するも、西武打線に捕まってしまう。外崎、山川、中村剛也のタイムリーで1点差に追い上げられる。

 

ソフトバンクはこの試合の前日にオリックスに敗れるまで9連勝しており、その間勝ちパターンのリリーフ陣にも相当の負担がかかっていた。さらにこの日は移動してすぐの試合ということもあり、打たれた中継ぎ陣は責められない。武田も計算通りのスラッターで外崎に引っ掛けた弱い当たりを打たせたのだが、送球が僅かに間に合わず内野安打となってしまう不運もあった。

 

しかし、とにかく山川を起こしてしまったのは痛かった。どんなに好調でも楽勝ムードでも気を抜けないのが勝負事、ということだろう。最近はソフトバンクよりの目線で試合を見がちなお股も山川のホームランで嫌な予感がしたが、それが的中した形となった。

 

◆森友哉の超メジャー級バッティング

 

5対4とソフトバンク1点リードで迎えた9回表に伝説は訪れる。森唯斗の故障でクローザーに抜擢されているルーキーの甲斐野央が、2アウト3塁のピンチで5番の森友哉を打席に迎えた。

 

初球はインローへの、140キロのバックフットスプリットを森が見極めボール。続く2球目、3球目は155キロのストレートが高めに外れる。ノースリーからど真ん中に投げ込まれた155キロのストレートを森はフルスイングで空振り。続く156キロのストレートはタイミングは合っていたがバックネットへのファール。

 

そして、フルカウントから甲斐野が選択した140キロのスプリットを森は反対方向へヒットを打つような「ちょこん」と合わせた打球でレフトスタンドに運んだ。

 

この打球には、ちょっとやそっとでは驚かなくなったお股も度肝を抜かれた。

 

日本の打者でも泳ぎかけながら残して合わせて、バットのヘッドを返して引っ張りの長打を放つ姿は何度も見たことがある。しかし、この打席の森のように反対方向に合わせてそのままスタンドに入る打球は見たことがない。森の超メジャー級の打撃に、ただただ驚かされ、感動させられた。

 

オールスター第1戦で大瀬良から放った打球角度42度の特大ホームランといい、森の打撃は桁外れである。高校時代から圧倒的だったとはいえ、これほどの打撃を見せる選手は私の野球ファン歴でも数えるほどしかいない。天才中の天才と言える。

 

森は捕手という重労働や、低く沈み込み下半身に大きな負担がかかるフォームの影響による疲労などから、シーズントータルでは少し数字を落とすことがある。だが、「瞬間最大風速」は圧倒的だ。低い姿勢からボールを打ち上げるスタイルは、メジャーでホームランを量産するイエリッチ(ブルワーズ)と通ずるものがある。

 

課題とされた過小評価されがちな守備面、フレーミングやスローイングも素晴らしい。配球も自身が強打者であることを反映して慎重で、変化球の使い所を心得ている。

 

入団直後はキャッチングが苦手でボールをポロポロと落としてしまったり、ミットの音をうまく出せず先輩投手たちに謝りながら必死で練習してきた。その苦労も報われているのだろう。

 

森がオールスターで放った、打球角度42度の特大アーチ

 

◆甲斐野央にも「あっぱれ」

 

ルーキーながらクローザーに任され、この厳しい場面で155キロを超える速球を度胸よく投げ込んだ甲斐野の勇気と投球も讃えたい。

 

個人的には開幕前から新人ならパ・リーグは甲斐野、セ・リーグは上茶谷が良いと思っていた。甲斐野は期待通りの投球で、5月には調子を落とすもクローザーに抜擢された。初のセーブシチュエーションでは緊張や経験不足から失敗してしまったものの、その力強い投球で徐々に場馴れしつつある。ストレートの伸びやキレ、回転効率も上がってきており、スラット・スプリット型投球で厳しい場面での経験を積んでいけば、どんどん伸びていくだろう。高橋礼との新人王争いにも注目だ。

 

普段はこんなに初々しい甲斐野。始球式で訪れた吉岡里帆にデレデレだが、マウンドではあの投球だ

 

甲斐野と上茶谷に期待していたお股

 

さて、歴史に残る森友哉の逆転ホームランで5対6とリードした西武だが、勝負は簡単には終わらない。9回裏、西武のクローザーの増田からこの日絶好調の上林が低めの、見逃せばボール球にも見える151キロのストレートを振り抜くと、低い弾道でそのままライトにスタンドイン。こちらもメジャー級、上林のこの日2本目の本塁打でまたしても同点となり、延長戦に入る。

 

上林の同点ホームラン

 

そして延長12回、満塁のチャンスで栗原が初球を大きなフライでセンターに返す。この犠牲フライによって「ルーズヴェルトゲーム」の勝負は決した。

 

5時間を超える、年に数回あるかどうかの大熱戦。ハイレベルなエンターテインメントと技術を見せてくれた両軍の選手に心から感謝したい。

 

これだけハイレベルな試合を見せてくれたら観客は魅了され、誰も帰らない。テレビ画面にも釘付けである。小手先で試合時間の短縮を叫ばれる昨今であるが、結局のところ熱い試合を見ることができれば長さなど気にならないのだ。WBCの日本対オランダの大熱戦を思い出した人も多いことだろう。

 

ソフトバンクと西武のメジャークラスの熱い戦いには、今後も注目だ。

 

今週の用語
森友哉→P136
中継ぎの負担→P225
キャッチャーの負担→P237
試合時間の短縮→P316

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
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