「落語ブーム」と言われ始めた年 「大銀座落語祭2005」【第16回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

「大銀座落語祭2005」は「上方落語がやってきた!」というサブタイトルのとおり、上方の落語家が57名参加する形で7月16日(土)・17日(日)・18日(月・祝)の3日間行なわれ、開催に先駆けて7月上旬に行なわれた銀座での「六人の会」の路上パフォーマンスと記者会見には上方落語協会会長の桂三枝(現六代目文枝)も参加した。小朝は前年の成功を受け、さらに新鮮な要素として「上方」というキーワードを用いたのである。

 

ちなみに上方落語唯一の定席「天満天神繁盛亭」は三枝の肝煎りで2005年12月に着工、翌2006年9月にオープンしている。また2005年と言えば1月に単発スペシャルドラマとして、さらに4月から6月までTBS系でドラマ『タイガー&ドラゴン』が放映されて「落語ブーム」と言われ始めた年。こぶ平が九代目正蔵を襲名したのはこの年の3月だ。

 

2005年は有楽町朝日ホールが使えず(16日の「朝日名人会」がバッティングしていたからだろう)、メイン会場が銀座ブロッサム中央会館に移った他、ガスホール、ヤマハホール、JUJIYAホール、コマツアミュゼホール、博品館劇場、よみうりホールが会場となった。

 

中央会館では「究極の東西寄席」が行なわれ、各ブロック毎に、A(16昼)は「正蔵初演の会」「仁鶴の会」「志の輔の会」の3公演セット、B(16夜)が「吉本特選名人会」「木久蔵・小遊三二人会」「小朝の会」。以下C(17昼)「花緑vsコージー富田」「昇太と爆笑問題の会」「圓楽・楽太郎二人会」、D(18昼)「鶴瓶の会」「歌丸の会」「文珍の会」、E(18夜)「小沢昭一の会」「小三治の会」「三枝の会」。また17日夜には「圓朝落語を変わったアレンジで」と題して馬生らの鹿芝居で『芝浜』と亜郎のミュージカル落語『文七元結』も。

 

ガスホールは16日が「1部:この噺はこの人で!(一朝、鳳楽、小里ん、志ん橋)/2部:文楽トリビュート(圓蔵、小燕枝、圓太郎、萬窓)」と「1部:色恋・西と東(馬生他)/2部:上方の底力(ざこば、小米朝他)」、17日が「1部:志ん朝トリビュート(志ん五、春之輔他)/2部:圓歌・春團治二人会」と「東西特選二人会三連発(染丸・さん喬、福笑・圓丈、雀三郎・談四楼)」、18日が「1部:胃の負担にならない爆笑落語会(川柳、夢之助、しん平他)/2部:鯰の急(朝馬他)」と「1部:志らく・たい平二人会/2部:東西夢の若手会(雀々、談春、喜多八、梅團治、吉弥)」。

 

ヤマハホールは16日「外国語落語会(入場無料)」と「1部:ナンチャンの落語会/2部:伝説の男たちの落語会(可朝、鶴光。桃太郎)」、17日「子供寄席(入場無料)」「長講名人会1(福團治、金馬、雲助、都)」「1部:復活!らくごのご(鶴瓶、白鳥、春之輔)/2部:待ってました!笑福亭(松枝、三喬他)」、18日「長講名人会2(松喬、圓窓、権太楼)」「1部:旬のお笑い大集合/2部:上方人気者勢揃い(八方、文福、きん枝、小枝)」。

 

JUJIYAホールは16日「小さんの遺産(三語楼、文楽、市馬、扇辰他)」「東京の落語家による上方噺(藤兵衛、左談次、ブラック他)」、17日「三代目三木助トリビュート(扇橋、小満ん他)」「1部:落語珍品堂(今松、圓橘、燕路)/2部:講談から落語に(小袁治、歌司、三三)」、18日「談笑の危険な独演会」「1部:有名人が落語になった(歌之介、ぜん馬、さん生、竹丸)/2部:NHK受賞者関西版(雀松、都んぼ他)」。

 

コマツアミュゼは16日「1部:志ん生トリビュート(志ん駒、志ん弥、喜助)/2部:東西艶ばなし(好楽、春若他)」、17日「サラブレッド10人会(金時、菊生、窓輝、王楽他)」、18日「1部:鶴瓶チルドレンの会/2部:上方落語珍品堂(仁智、小春團治他)」の他に鈴々舎馬桜の「カルチャー落語会」というのが毎日あった。

 

博品館劇場では18日につかこうへい原作『熱海殺人事件』を渡辺正行の演出で昼夜2回興行(出演:柳家喬太郎、小川範子他)

 

そして、よみうりホールは17日に「三枝・きみまろ二人会(ゲスト:正蔵)」の2回興行と「風間がワ、ハ、ハと大笑い(1部:ワハハ本舗/2部:風間杜夫独演会)」。

 

2005年の観客動員数は前年より5千人増えて2万人だったという。

 

ちなみに僕は16日、17日ともに12時開演の「立川流広小路寄席」に通って2日間で22席の落語を聴いた、と記録してある。18日はBURRN!8月号の入稿締切直前だったため朝から晩まで編集部にいたようだ。

 

……そうそう、毎年この時期の3連休というのは基本的に仕事が最も忙しい時期なので、平日よりもむしろ落語会に足を運びにくいのだった。その点、上野広小路亭は編集部からタクシーで簡単に往復できるので便利だ。上野鈴本演芸場も同じだが、あそこは平日に行くことがほとんど。なお、編集部から歩いて行ける便利ならくごカフェがオープンしたのは2008年12月のことだった。

 

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を