2019/03/01
吉村博光 HONZレビュアー
『チーズはどこへ消えた?』扶桑社
/著、
およそ、本がすき。をご覧になる方なら、19年前に刊行された『チーズはどこへ消えた?』というベストセラーを知らない方はいないだろう。発行部数は、日本だけで400万部、全世界累計で2800万部を突破しているという。
しかし今あらためて、その「あらすじを話してほしい」といわれても、意外と困る方が多いのではなかろうか。じつは私もその一人なのだが、それは決して本書が「つまらなかった」わけではない。読んだ後、とても大きな影響を受けた記憶がある。
仕事への意識を変え、取次マンでありながら、「AI書店員ミームさん」や「IoTを活用したPOP」などの仕組みやイベントを企画し、テレビに出たりするようになった。うす笑いを浮かべ、周囲から「変態」よばわりされるまでになってしまった。
そのまま約20年。もう取り返しがつかないところまで来てしまった。笑。もうすぐ本書の続編が出るという。著者には、ぜひその本で私の人生に対して責任をとってもらいたいものだ。笑。私は、その続編を読む準備として、まずは本書を読み返すことにした。
要約すると本書は、二匹のネズミと二人の小人が迷路の中でチーズを探す、ビジネス寓話である。食べ続けていたチーズがなくなった時、四者四様の反応をするのが、まるで人間社会の縮図のようで面白い。急激な変化への対応方法について、大きな学びがある。
いま読み返しても、十分、刺激的だった。そして、本書を読んだ人が次のチーズを探していたら世の中はもっと変わっていただろう、と思った。結局のところ読者の多くは、不平をもらしてその場に留まった、小人のヘムと同じ道を選んだのかもしれない。
当時も閉塞感はあったが、民主主義や資本主義が終わったとまで言う人は、まだ少なかった。もはや、チーズは消えてしまったのである。でも、どこかに新しいチーズはある。「さぁ、新しいチーズを探そうじゃないか」本書のメッセージは、今こそ胸に刺さってくる。
19年前に次のチーズを探せなかった貴方にこそ、ぜひ読んでもらいたい。
私は本を売るのが仕事だから、「仮に1/4の読者がヘムだったとしても、このコピーで100万部売れるではないか」と算盤をはじいたのだが、それこそ古いチーズなのかもしれない。ちなみに、登場人物(2匹と2人)には、それぞれ象徴的な名前がつけられている。
スニッフ(ねずみ)・・・においをかぐ、~をかぎつける
スカリー(ねずみ)・・・急いで行く、素早く動く
ヘム(小人)・・・閉じ込める、取り囲む
ホー(小人)・・・口ごもる、笑う
私が自分を投影させたのはホーだった。その精神性は、迷ってばかりである。ねずみ達のように変化に対応してすぐに動くこともできなければ、過去の自分を信じて待ち続けることもできない。うす笑いを浮かべてモゴモゴしながら、ヘムが動く前に動くのである。
ただ、そこに囚われることを止めれば、新しい挑戦ができる。いや、現実はむしろその逆で、新しい挑戦をするためには、古いものを捨ててしまわなければいけないのかもしれない。要するに、空のグラスにしか、水は流れ込むことができないのだ。
このまま新しいチーズを求めるのは無理だ。変化を予期したら、まずはグラスを空けてから、新しい挑戦をはじめよう。そこに待っているのは、胸踊る新しいチーズ?それとも、チーズに替わるめくるめく何か?続巻を読む準備はできた。
(続巻はこちら)
『チーズはどこへ消えた?』扶桑社
/著、