藤原ヒロシになりきって古今東西の音楽巡りが愉しめる『MUSIC 100+20』

藤代冥砂 写真家・作家

『MUSIC 100+20』宝島社
藤原ヒロシ/著

 

音楽から離れて久しい。

 

決して冷めてはいないが、ファッションと同じで、そんなに熱中できなくなって、久しい。

 

なので、音楽が無ければ生きていけない、とか、新しい服を着ると気持ちに張りがでる、とか聞くと、自分はそこまでじゃないな、と確認しちゃうのだ。

 

たまたま手にした藤原ヒロシさんの『MUSIC 100+20』。そういえば、十代の頃は、必ず先生的な役割をしてくれる案内人がどんな分野にもいて、例えばラジオ番組サウンドストリートでの坂本龍一さんや渋谷陽一さんは、私を音楽の世界へと誘ってくれたし、美術で言えば、ええと誰かいたっけかな? 思いつかないけど、きっといたはずで、写真ならロバート・キャパという報道カメラマンが私にレンズとフィルムの世界へ導き、文学なら金子光晴さんに多くを教わった。

 

藤原ヒロシさんは、タイニーパンクスの頃に初めて知って以来、その背中を眺めてきたのだけど、直接の面識はない。でも同時代の先行者として、当たり前のように常に視界に在る人で、その人がどんな音楽を選んでいるのかを、私の音楽半生を振り返るつもりで読み始めた。

 

ディスクガイドであるが、実は藤原ヒロシ本である。彼が三重県の伊勢に生まれ、十代でロンドンに遊学し、東京をベースにどう生きてきたかが、120のディクス解説を通して俯瞰できる。

 

オカルト映画のサントラ音楽が実は非常に美しいことに気づき、音楽鑑賞目当てで、母にオカルト映画に連れていってもらった話などは、子供は教わらなくても才能の種子を初めから持っているのだなと感心した。

 

そうしたディスク周りのエピソードがいちいち面白く、まるで彼自身になったかのように、古今東西の音楽巡りができる愉しみは本書の肝だろう。

 

そして、結構知らないミュージシャンやディスクも多く、spotifyで試聴しては、ふむふむ、おおお、なるほど、これは、などと呟くのが、最近の就寝前の習慣である。

 

どんな分野でもガイド役がいたと前述したが、それでもどちらかといえば、私は自力で発見していくタイプであり、自習派といっていい。

 

自習派のいいところは、探したりする経験を含めて、全て自分の体験として蓄積される濃厚さにある。その際、効率とかはどうでもいい。一年かけて知り得たことを、一時間で知ったとしても、それが得をしているとは言い切れないところがオリジネイターの視点ではないか。

 

藤原ヒロシさんは、レコードショップをレアなレコードを探している時代を決して無駄な時間だったとは思わないだろう。かつてのレアな音源が、あっけなくCD化されていても、時代が変わったなあと呟く程度だろう。

 

彼が巡ってきた、そしてこれからも続く音楽の旅の、途中報告として、本書はまるでトラベルガイドのようでもある。

 

そして、ガイドとはそれを利用した旅が終わった後は、新しい旅人へと手渡されるものである。

 

なので、私はこれをあなたに勧める。

 

今月のつぶやきー

 

3/9~31まで、沖縄のpinup galleryにて写真展します。
タイトルは「3 books.2eyes,1voice and you」
近著「あおあお」「山と肌」「90 nights」からの抜粋です。
https://www.pinup.website/
沖縄県 宜野湾市 真栄原2-19-1

 

『MUSIC 100+20』宝島社
藤原ヒロシ/著

この記事を書いた人

藤代冥砂

-fujishiro-meisa-

写真家・作家

90年代から写真家としてのキャリアをスタートさせ、以後エディトリアル、コマーシャル、アートの分野を中心として活動。主な写真集として、2年間のバックパッカー時代の世界一周旅行記『ライドライドライド』、家族との日常を綴った愛しさと切なさに満ちた『もう家に帰ろう』、南米女性を現地で30人撮り下ろした太陽の輝きを感じさせる『肉』、沖縄の神々しい光と色をスピリチュアルに切り取った『あおあお』、高層ホテルの一室にヌードで佇む女性52人を撮った都市論的な,試みでもある『sketches of tokyo』、山岳写真とヌードを対比させる構成が新奇な『山と肌』など、一昨ごとに変わる表現法をスタイルとし、それによって写真を超えていこうとする試みは、アンチスタイルな全体写真家としてユニークな位置にいる。また小説家としても知られ著作に『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』がある。第34回講談社出版文化賞写真賞受賞

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