2019/05/29
大山 ヴィレッジヴァンガード新店立ち上げ隊長
『マルドゥック・アノニマス4』
冲方丁/著 寺田克也/イラスト
読者みんなが待っていた展開。
ザ・バロット無双。最高です。
3冊にわたっていじめ抜かれたウフコックがやっと救われます。
なんて言ってますが実はこの作品、2巻の途中で挫折してほったらかしてたんですよね……。
その挫折した理由とふたたび手に取った理由を正直に書いてみようと思います。
それが同じようにこのシリーズを愛しながらも「長いし完結してから読もう」とか「残酷描写がキツくて…」とか様々な理由で今読んでいない人の背中を、ほんの少しだけでも押すことができれば幸いです。
そうです。この文章は「マルドゥックシリーズ」のファンだけど、アノニマスはまだ読んでいない、または途中で投げ出した、という極めて限定された方たちに向けて書いています!あしからず。
でも実はそういう人結構いるんじゃないかなー、と思ってます。
ではまず、なぜ「2巻の途中」なんて中途半端なところで読むのをやめたのか?
理由はふたつ有ります。
ひとつ。なんせ話が暗い。前作の「マルドゥック・ヴェロシティ」からもうずーーーーっと暗い。(背中押す気あんのか?)ヴェロシティ1冊目の刊行が2006年なので個人的な体感では13年ずっと暗い、ぐらいのイメージ。
シリーズ第1作「マルドゥック・スクランブル」は「圧縮」「燃焼」「排気」というサブタイ通り、だんだん盛り上がってどーんとクライマックス迎えてしっかりハッピーエンドでした。
しかし!!「ヴェロシティ」は虚無に向かって全力疾走するような底抜けの暗さ。敵役であるカトル・カールは「暗殺・誘拐・脅迫・拷問」が生業の暗黒傭兵集団……拷問シーンがマジでエグい。
そして本作「アノニマス」。まず主人公たるウフコックがガス室で処刑を待つところから始まります。文句なし!暗い!しかも敵役であるクインテットは「暗殺・誘拐・脅迫・拷問・監禁」が生業……前作よりなんか一個増えてるよ!
いや、もちろん暗いだけなわけないですよ。両シリーズともにバラエティ豊かな異能力者(エンハンサー)が繰り広げるバトルはアイデアも熱量もたっぷりですし。
ただ、このエンハンサーたちがヤバい……。主要な登場人物だけでも20人近く……設定上は50人を超えるという……。これがもうひとつの理由。
登場人物が多すぎて覚えられない…すいません、冲方先生。単純に自分の「老化」と言っても良いかもしれません。寺田克也先生、お願いですから登場人物全員のイラスト書いてください……。
登場人物(主にエンハンサー)の名前と能力と見た目の特徴を頑張って覚えては暗い話に打ちのめされる繰り返しに疲れ、2巻の途中で読むのを(いったん)やめたわけです。
そんな落ちこぼれファンがふたたび本作を手に取った理由はただひとつ。
「ウフコックとバロットの再会」という帯の文句、これです。
そうだ、そもそも俺これが読みたかったんだ!という当たり前の気づき。
アノニマスに先立つ短編「Preface of マルドゥック・アノニマス」でもその再会は予告されていたんですが、完全に忘れていました……。
失われた時間を取り戻すように4冊ほぼ一気読み。
ウフコックに救われた少女バロットが今度はウフコックを救いに現れる、という燃える展開。
以前ウフコックがバロットに問いかけた言葉を今度はバロットが問いかける。あなたの同意が必要なんだと。
そして「私、まじでがんばっちゃう」(これ、3巻のセリフですがマジかわいい)とバロットが言ったとおり、4巻は今までの鬱憤を晴らすかのように最強コンビが大暴れ!……なんですが、あくまで「殺さない、殺されない、殺させない」がモットー。「正しく」ウフコックを使い、強敵を冷静に制圧してきます。これがめちゃくちゃスカッとする!
なんせ個人的には13年分の暗黒の蓄積が一気に吹き飛んで光が差してきたような壮大なカタルシスがありまして……。気がつけば目に涙を浮かべながら深夜に部屋で一人ガッツポーズしている、というかなりヤバい感じになってました……。
ルーン・バロット・フェニックスという少女はもはやバロット(孵化寸前に煮殺されたアヒル)ではない。フェニックスという名前の通り、不死鳥として生まれ変わったのだ!……というベタベタな感想しか出てきませんでした!
本当、最高でした。
おかえり、バロット。そしておかえり、ウフコック。
……でもまさか4巻1冊使ってまだ○○してないなんて!!
今度は続きが待ち遠しすぎてもうすでにつらいです!!
ー今月のつぶやきー
いまさらながらSpotifyを有料プランに。
聴きたいのが終わった後に勝手に再生される曲がなんとなく納得できる時とものすごく違うジャンルになる時があるのなんでだろう?
まあその方がどんどん新しい音楽に出会えていいのかも。
ちょっとずつ仲良くなっていこう。
『マルドゥック・アノニマス4』
冲方丁/著 寺田克也/イラスト