2019/06/12
今泉愛子 ライター
『さよなら!ハラスメント 自分と社会を変える11の知恵』晶文社
小島慶子/編
教育学部の学生だった私が、中学で教育実習をしていた時のことだ。中学1年生の保健を担当し、第二次性徴について説明していると、1人の男子中学生が手を上げて発言した。「先生、処女でしょ」
この本を読んでいて、ようやくあれはセクハラだったと気づいた。教室という空間で、大きな権限を持つのは教員だ。パワハラが起きるなら、教員から生徒に、だろう。だけど彼は男で、私は女だった。大して経験もない女が偉そうにしてんじゃねぇよ。そんな不快感が彼にその発言をさせたのだろう。
この本では、かつてアナウンサーとして活躍し、現在エッセイスト、タレントとして活躍中の小島慶子さんが、小説家の桐野夏生さんやライターの武田砂鉄さん、評論家の荻上チキさんら11人に、ハラスメントについてインタビューしている。
その中の1人、弁護士の伊藤和子さんは、性暴力についてこう解説する。「男性のほうが女性を支配したいという気持ちがすごく強いので、つなぎ止めるために様々なマインドコントロールをするんです」
たとえば、自己肯定感が低い女性を「君みたいな女性を愛せるのは僕だけだ」と口説き、暴力を振るうときには、「僕に暴力をふるわせた君が悪い」と開き直る。そうやって次第に支配を完成させていくのだ。
社会学者で男性学を研究する伊藤公雄さんは、「女性へのハラスメントには、支配だけじゃなくて、依存の問題が絡んでいる」と指摘する。女性は、自分を癒してくれるべき存在で、性的な欲望を満たしてくれるべき存在だ。不機嫌にしているときは、察してほしい。
そうやって男性は、女性にいばりながら甘えてきた。
「日本人は、男尊女卑社会に過剰適応している」と言い当てたのは、大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斎藤章佳さんだ。
これまで自分が目にしてきた光景のいびつさが、少しずつ見えてくる。あのとき、不愉快だったのはなぜか。なぜ自分は平気そうにしていたのか。
支配されている側、抑圧されている側が怒りを感じることすらできずにきた状況が、少しずつ変化している。NOと言っていい。#MeTooと声をあげよう。
支配している側の動きが鈍いのは、まだ支配することの方が、メリットが大きいからだ。でも、これからは確実にデメリットが大きくなっていく。社会のダイバーシティが進めば、人を上か下かでしか判断できず、対等な関係が築けない人は、どんどん生きづらくなる。
女性にモテにくくなり、会社では出世しにくくなるだろう。
令和はきっと、そんな時代になる。
『さよなら!ハラスメント 自分と社会を変える11の知恵』晶文社
小島慶子/編