ふたりが紡いだ物語に互いが絵を描いた、新しい試みの絵本 『みなとまちから』『とおいまちのこと』

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『みなとまちから』『とおいまちのこと』佼成出版社
nakaban/著 植田真/イラスト(『みなとまちから』)
植田真/著 nakaban/イラスト(『とおいまちのこと』)

 

 

はじめて行く場所、はじめて見る景色。
見なれた、したしみのある毎日をはなれることでくっきりと、うかびあがることがある。
それは、日常の中でかきけされ、耳をすまさないと聞こえないような、ちいさくも大切なことをおしえてくれる声。この景色をともに味わいたかったと、思い浮かぶひとの顔。
ひとりで体験するはじめては、こころもとない。けれど、その場所に立つことでしか知ることのできないわたしがいる。

 

『みなとまちから』と『とおいまちのこと』はふたりのえほん作家が紡いだ物語にたがいが絵をかいた、あたらしい試みのえほん。途中には、物語をつむいだ作家がみずから絵をかいたページがあり、そこにはふたつの物語をつなぐモチーフが描かれている。

 

『みなとまち』におりたったのは、きつねのぼく。はじめておりたった街では、いつもは通りすぎるけしきやおとが、ふと、こころにとまる。はいいろのそら。きれいないし。かもめのこえ。とおくのかみなりのおと。こころにとまったあれこれを、ぼくはノートにかきとめる。
あめはやまない。みちにもまよった。あまやどりのカフェでねむってしまったぼくは、ふしぎなゆめを見る。あおいふうとうが、でてくるゆめ。思いだすなつかしいばしょ。こうちゃは冷めてしまったけれど、たいせつなことを思いだした。
あの人に、てがみをかこう。

 

『とおいまちのこと』でも、ふりつづけているのは、あめ。いえのなかでは、おちゃのじゅんびがすすんでる。
〈コツン コツン コツ コツ〉
ゆうびんうけから、きこえてきたおと。なかをのぞくと、あおいふうとうをくわえた、ことりが飛びだしてきた。ふと、「みなとまち」にいるともだちのことを思いだす。ぼんやり、ふんわり、思い出す。おゆがわいた、おちゃのじかんだ。みなとの描かれたカンから、こうちゃをとりだす。そうだ、てがみがとどいているんだった。うっかりてがみにこうちゃをこぼしてしまったけれど、だいじょうぶ。

 

〈とても とても しずかです ぼくは みなとに います〉
きこえてきたのは、やっぱりあの人のこえだった。

 

ふたつの物語をつなぐのは、あめ、こうちゃ、てがみ。そして、互いをたいせつに想うきもち。

 

あめのなかでも、ひとりぼっちでも。たいせつな人を想うきもちは、届く。想いはことばに形を変えて、風にのり、やがて、ふわりと目の前にさしだされる。

 

ほんとうに大切にしたいのは、そう、こんなシンプルなことなんだ。

 

 

『みなとまちから』佼成出版社
nakaban/著 植田真/イラスト
【amazon】【楽天ブックス】

 

 

『とおいまちのこと』佼成出版社
植田真/著 nakaban/イラスト

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この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれの水がめ座。担当は文芸書、児童書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。1万円選書サービス「ブックカルテ」参画中です。本の声、きっとあなたに届けます。

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