書店員の苦悩が炸裂! あなたのところの店長も、ひょっとしたら「バカな人」かも?

金杉由美 図書室司書

『店長がバカすぎて』角川春樹事務所
早見和真 /著

 

 

そんなに分厚い本でもないし読みにくいわけでもない。
いや、むしろ最近の小説にしてはコンパクトだし、リーダビリティも優れている。
なのに、読み終えるのにやけに時間がかかった。
何故かというと…
いちいち脳が揺れるほど激しくうなずきながら読んでたからだ!

 

そもそも、いわゆるジャケ買いだった。
「店長がバカすぎて」
心に響きすぎるタイトル。
書店店頭でこのタイトルに共感した人がみんなレジに殺到したら、あっという間にベストセラーになるだろう。多分。っていうくらいのインパクト。

 

谷原京子は武蔵野書店という小規模チェーンの本店で働く、文芸担当の契約社員。
好きな本に囲まれて働く今の環境は、確かに夢見ていたものと同じなのだけれど、でも、でも、何かが違う!
無理難題をふっかけてくるお客様たち、初心を忘れて慢心する作家、いくら発注しても入荷してこない売れ筋の本、雑貨に占領されていく平台、面白くもないベストセラー。現場のことを理解しない経営者、中小の書店を軽視する出版社、そしてバカすぎる店長。

 

あるあるあるある!
あーるーわー!
それなー。わかるわー。

 

ヘッドバンギングしすぎて首が痛くなるくらいにうなずきまくってしまう。
書店業界の内部事情がリアルに描かれているので、胃まで痛くなってしまう。
出てくるエピソード、まったく誇張なし。むしろ控えめ。
他店のカリスマ書店員の発言「いままで上にいた店長で一人でもかしこい人っていた?」
京子と同じくらい即答で食い気味に、「いません!」と心の中で叫ぶ自分が悲しい。
ちなみに京子の上司は全部で3人だけど、私の上司は1ダース以上。
ここで描かれているエピソードのほとんどすべて経験済み。
なんだろう。涙で活字が読めないよ、ママン。

 

武蔵野書店本店の店長は、空気読めないし、仕事できないし、知識もないし、体力もないし、話に意味がないし、でも迷いもないから余計に腹立たしさ倍増。そんな年齢不詳の独身男子。
そのバカ店長に振り回されながら、良いと自分が信じる本を一人でも多くの読者に届けようと奮闘する京子。けなげだ。がんばれ!がんばれ谷崎京子!

 

ほんのりとした恋愛もからみ、謎解きもあり。
でも一言でまとめるとやっぱり「店長がバカすぎて」、そしてどんなにブラックな職場だろうと本に関われるかぎり辞められない「私がバカすぎて」という、書店で働いた経験のある人にはべらぼうに身につまされるお仕事小説です。

 

書店で本を買う側の人にもぜひ読んでみてほしい。
そうしたらきっと「最近の新聞に『今一番売れている本!』って記事だか広告だかに載ってた本はある?著者も出版社もタイトルも覚えてないけど。内容?読んでないからわかるわけないでしょ」「さっきテレビで話題になってた本ある?え?視てなかったの?」「ここらへんに一年くらい前に積んであった赤っぽい表紙の本はどこにやったの?」とかいうクイズのような質問が減る…かもしれない。

 

こちらもおすすめ。

『小説王』小学館
早見和真/著

 

熱血出版業界小説。ギラギラと熱い!
幼馴染の編集者と作家が、斜陽の業界をひっくり返そうとする物語。
これがリアルだったらいいなあ。こんな気概のある若者たちがいたら、右肩下がりっぱなしの出版業界にも未来があると思えるかなあ。

 


『店長がバカすぎて』角川春樹事務所
早見和真 /著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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