2020/01/22
一ノ瀬翔太 編集者
『LIFE 3.0』紀伊国屋書店
マックス・テグマーク著 水谷淳訳
「俺を微分してくれ!」と言った友達がいる。高校生のころだ。x^3をxで微分すると3x^2になる。要は次数がひとつ下がる。これによって現実世界を離脱、「嫁」の待つ2次元世界へ行きたい、ということだったと思う。いまググったらネット上の常套句のようだから、あるいはそれにならったのかもしれない。
彼の気持ちは私にはわかりかねるけれど、マックス・テグマークの新刊『LIFE 3.0』を読んでいると、「俺を計算してくれ!」みたいな気持ちにはなる。
「我々人間がそもそも何らかの嗜好を持っているのは、我々自身が進化上のある最適化問題の解にほかならないからだろう」(p.398)
「脳の中のニューロンどうしをつなぐシナプス結合は、生まれたときに受け継いだDNAの約10万倍の情報を保存することができる。あなたのシナプスが情報量にしておよそ100テラバイト相当の知識や技能をすべて保存しているのに対し、DNAが保存できる情報量は約1ギガバイト、ダウンロードした映画1本がかろうじて収まる程度だ。……両親からもらったメインの情報モジュール(DNA)に十分な情報保存容量がないので、その情報をあらかじめロードしておくすべはないのだ」(p.47)
「法的プロセスは抽象的には、証拠に関する情報と法律を入力として判決を出力する計算とみなせる」(p.157)
「この宇宙が最終的にどの程度まで生命を宿すのかを知りたいのであれば、物理法則によって課される野心の限界を探らなければならない」(p.296)
「生命が最終的に利用できる物質の量に対して、物理法則はどの程度の上限を課しているのか?」(p.314)
「あなたや、地球サイズの未来のスーパーコンピュータは、1秒間に何回もの思考をおこなえるが、銀河サイズの精神は10万年に1回しか思考できないし、差し渡し10億光年の宇宙スケールの精神は、ダークエネルギーによって各部分が分断されるまでに合計で約10回の思考をおこなえる時間しかない」(p.337)
などなど、テグマークの数学的・物理的世界観は、人間という狭い/古いフレームの外部へと私たちを連れ出してくれる。こうして本書に「ハック」される心地は、そう悪くない。
『LIFE 3.0』紀伊国屋書店
マックス・テグマーク著 水谷淳訳