2020/01/21
小説宝石
『夜 は お し ま い』講談社
島本理生/著
なぜ、そんなに生きづらい方向ばかり選んでしまうのか。島本理生の『夜 は お し ま い』に登場する女性たちの姿にそう思わずにはいられないが、でもどこかで彼女たちがそういう行動をとってしまうことに納得している自分がいる。
連作短篇集である本作は、複数の女性たちの難しい事情と、一人の神父との対話が描かれる。第一話で登場する女子大学生は、学園祭のミスコンに出場したことで自尊心を傷つけられ、そのタイミングで声をかけてきた男と交際をはじめる。
どう考えても怪しげな男であり、彼女もうっすらそのことに気づいてはいるのだが、会い続けてしまう。
第二話の主人公は、愛人業で裕福に暮らす女性だ。金を貢いでくれる男を複数持ち、器用に付き合いわけている彼女は、マンションを与えてくれた男から奇妙な、かつ屈辱的な提案を受けるが、それを拒否することができない。
第三話の女性は既婚者だが、夫とはセックスすることができず、他の男と逢瀬を重ねている。
彼女たちは何かの答えを求めて教会を訪れ、金井という神父に自分の事情を打ち明ける。そこで交わされる会話とは……。後半には、金井自身も人に言えない苦悩を抱えていることが分かってくる。
自分を認められない時、人はなぜか罪悪感を抱き、より自分を罰するほうへと行動することがある。楽で安全な道を選ぶことを無意識のうちに避けてしまうのは、本能なのかその人が生きている社会の影響なのか。
そんな人間の本質について真摯に向き合う一冊だ。神父が明解な回答を与えてくれることはないが、何かしらの糸口を示してくれるのは確か。彼女たちの暗い夜が少しずつ明けていくように、ゆっくりと、読み手の心にも光が差し込んでくる。
こちらもおすすめ
『小さな場所』文藝春秋
東山彰良/著
台北の街で育つ少年の賑やかな日々
台湾の台北。刺青店(タトウーシヨツプ)が並ぶ紋身街の食堂の息子である「ぼく」は9歳。店にやってくるニン姉さんたちや表の屋台でタピオカミルクティーを売っている阿華(アフア)ら、大人たちに囲まれて賑やかな日々を送っている。
土地廟の神様が逃げ出したり、学校の先生の別の顔を知ったり、友達と仲たがいしたり……。聖人君子とはいえない大人たち、彼らを見つめる少年の素直な目。自分の故郷ではないのにどこか郷愁をさそう。最終話に挿入される「ぼく」が作った童話に「小さな場所」の意味がこめられており、これが心に沁みる。
『夜 は お し ま い』講談社
島本理生/著