2020/07/09
小説宝石
『四神の旗』中央公論新社
馳 星周/著
『比ぶ者なき』に続く、馳星周の古代史ノワール第二弾『四神の旗』は、前作で主人公だった藤原不比等の没後、その息子たちの代に物語は移る。
不比等は死ぬ前に四人の息子たち、武智麻呂、房前、宇合、麻呂を呼び寄せて、お前たちは、四神、すなわち、青龍、白虎、朱雀、玄武の四神であり、そなたたちが力を合わせて、新しいしきたりを王朝につくらねばならぬ、といい残す。
つまり、この作品は死者の意志が生きている人間のそれを支配して物語が動き出す、という設定をとっている。
従って私は勝手に、前作を読んだときのイメージ(これはあくまでもの話だが)のように薄暗い中で野心に燃えた男たちが密議を凝らしているようなそれを思い浮かべたのだが、今回は、文体のみをとらえればむしろ明るく、華やかな王朝時代の陰で行われている政事を巧みに描き出している。そして一作目より確実に読みやすくなっている。
さて、四兄弟が政を進めていくに従って、唯一人、邪魔になるのが、生前の不比等が唯一恐れた男である長屋王だ。
作品は不比等の娘で軽皇子(かるのみこ)(文武天皇)に嫁いだ宮子の尊称問題や首(おびとの)皇子(聖武天皇)の皇太子問題など、史実をキッチリと固めながら、藤原の四兄弟が必ずしも一枚岩ではなく、中には長屋王と志を同じくする者もいたことを描いている。
また長屋王に関しても聖人君子であるだけでは、政治の中枢にはいられない。武智麻呂のいう「人は感情に左右される生き物です」云々は、人間の一面性しか理解しない彼の弱点をよく示している。
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『源平妖乱 信州吸血城』祥伝社
武内 涼/著
義経らを襲う、吸血鬼の妖術
さすがに戦前の作品のように“神州”の二文字は使っていないが、この〈源平妖乱〉の第二弾、国枝史郎の『神州纐纈城』にインスパイアされたことは一目瞭然。作品を読む前から、もう興奮しているのだよ。
都での和製吸血鬼〈殺生鬼〉の一団との戦いに一応のケリをつけた〈影御先〉すなわち、源義経と巴らは、木曾義仲の協力を得て信濃へ。作品には、吸血の主・黒滝の尼が登場、これが凄まじい妖術を用いて義経たちを追いつめる。出ると一気読みしてしまうので、はやく第三弾が読みたい。
『四神の旗』中央公論新社
馳 星周/著