3度目の宇宙へ――ISS(国際宇宙ステーション)に向かった野口聡一さんが語っていたこと

馬場紀衣 文筆家・ライター

『宇宙に行くことは地球を知ること「宇宙新時代」を生きる』光文社新書
野口聡一・矢野顕子/著 林公代/取材・文

 

撮影/林公代

 

この本には、誰もが宇宙に行ける時代を迎えるにあたって必要な情報と、宇宙の奥深さが詰まっている。音のない宇宙を音で把握したいミュージシャンの矢野顕子さんと、技術者でありながら自らの感性で宇宙を理解しようとする宇宙飛行士の野口聡一さんが、宇宙への関心とその魅力をさまざまな角度から語る。2人の対談が楽しげで、視点の柔軟さに引き込まれてしまう。

 

ISS(国際宇宙ステーション)やスペースシャトルでは45分ごとに昼と夜が訪れ、夜がやってくると闇に襲われるように感じるらしい。

 

地上で生活する私たちは、青い海も緑の草も、太陽光が反射する光を見ている。しかし宇宙空間では、行った光は永遠に戻ってこない。宇宙で出会う闇は、地上のあらゆる黒色ともちがう「漆黒の闇」だという。いったいどのような色なのだろうか。

 

そのうえここは、音のない世界。自分たち以外に動く生き物の気配がない「一切の命を拒絶する、絶対的な闇」。それは地上にいては知ることのできない、宇宙へ出た者だけが味わうことのできる「絶対的な孤独」をも連れてくるという。

 

宇宙空間に出ると「ここは生き物の存在を許さない世界である」「何かあったら死しかない」ことが理屈抜きに分かるのだと、野口さんは語る。「宇宙服の内と外で生と死がせめぎ合う、その緊張感はすさまじいものです」

 

想像してみよう。宇宙服の、純酸素で満たされた水のある命の詰まった世界と、ごく薄いヘルメットや手袋の外に広がる死の世界。死の世界と自分を隔てているのは、薄いヘルメットと宇宙服だけだ。なんてたよりない。しかもその環境で、1回7時間の船外活動にあたらなくてはならない。しかも、100種類近くの道具を使って。

 

だからこそ、生を拒絶するような宇宙空間のなかで命の輝きを放ちながら回る地球を目にしたとき、その眩しさに圧倒され、人知を超えた存在を感じたと野口さんは語る。

 

「一人一人の人間が、植物が、さまざまな動物たちが地球上で命を謳歌していることが、リアルな存在として感じられました。『地球の眩しさ』は『命の輝き』そのものです。命の躍動感にあふれた天体だということが、感慨とか印象とかふんわりしたものではなく、天啓のような形で自分の中に起こりました。『すごい存在だ』と」

 

宇宙には、生と死が同時に存在している。
その感覚は、実際に宇宙へ行ってみなくてはわからないだろう。近い未来、ごく一部の人だけでなく、子どもから大人まで、宇宙を夢見る誰もが地球を飛び出せる時代がくるかもしれない。地上では知りえない新しい経験が待っているのだ。そんな胸躍る時代がくるのが今から待ち遠しい。

 

『宇宙に行くことは地球を知ること 「宇宙新時代」を生きる』 
野口聡一・矢野顕子/著 林公代/取材・文

この記事を書いた人

馬場紀衣

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文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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