人生後半、ライフスタイルはまだまだ変化する

馬場紀衣 文筆家・ライター

『愛せるキッチン、愛する暮らし 50代からの私らしい住まいと暮らし方』光文社 
田原由紀子/著

 

写真 原野純一

 

仕事にプライベートに、アクティブな毎日を送ってきた50代、60代以降の人びとがこれからの住まいに求めるものとはなんだろう。住まいと暮らしにまつわる日々の想いをまとめた本書には、特別なわけでも、有名人なわけでもない、身近に普通に暮らしている人たちの素敵な住まいが紹介されている。

 

たとえば15年間にわたる海外暮らしを終えた家主が帰国後にリフォームしたという家。インテリアには、外国での思い出を語る調度品の数々が取り入れられている。インドで手に入れたスカーフをカーテン代わりにしたり、キッチンにベルギー産のスライスレンガをはめ込んだり。ウィリアム・モリスの美しい壁紙はすりガラスの照明と見事にマッチしている。マレーシアで手に入れたモンゴルのアンティーク家具は、この先もずっと家のなかで活躍し続けるだろう。どれも、歳を重ねて、本物を見定められるようになった大人ならではの感性で選び抜かれた品だ。

 

写真 原野純一

 

思い出とともに暮らす家もあれば、新しい目的のためにリフォームを決めた家もある。37歳で購入したオフィスビルを改装しながら暮らしてきた女性は、定年後の夢を叶えるためにオーダーキッチンをメインにリフォームした。1階事務所をリサイクルショップやカフェにするアイデアもある。将来はレッスンができたらと、フラワーケーキも最近学びはじめた。エステコーナーにする予定で、リビングの一角を個室にできるようにもしている。

 

50代からの住まいと暮らし方を考えるとき、この世代ならではの家族との関係や体力の低下を心配して、便利でコンパクトな家への引っ越しを考える声もあるという。あるいは多少不便でも自分らしく過ごせる場所を求める意見もある。著者は、「どこに住むのがこれからのライフスタイルにフィットするのか。まだ具体的な何かが差し迫っていない中でこれを考えるのは、ましてや行動に移すのは、なかなか難しい」と述べたうえで、それでもその時の事情が許す範囲で「ライフスタイルの変化に合わせて住む場所を変えていくという選択肢は、心に留めておきたい」と話している。

 

仕事や子育てが終わり、夫婦ふたりの自由な時間も増えてくる人生の後半はまさに「変化の季節」だ。人生後半、ライフスタイルはまだまだ変化する。本書は、50代からの自分らしい住まいを探す人たちの暮らしのヒントになる一冊だ。

 

『愛せるキッチン、愛する暮らし 50代からの私らしい住まいと暮らし方』光文社 
田原由紀子/著

この記事を書いた人

馬場紀衣

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文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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