蔦屋書店コンシェルジュが勧める「読書」をめぐる本(4/4)

三砂慶明 「読書室」主宰

『ぼくの伯父さん』つるとはな
伊丹十三/著

 

■本棚からの招待状『ぼくの伯父さん』

 

読書が特別なのは、すべてがたった一冊からはじまり、本の内容はまったく変わらないにもかかわらず、同じときに同じ本を読んだとしても、その体験が読んだ人ごとに違うということだと思います。
俳優や商業デザイン、イラストにエッセイなど、手掛けた仕事でマルチな才能を発揮した映画監督、伊丹十三は、「読書」についてこう書いています。

 

「書物が私にとっては父親のかわりだったように思う。人生なにか問題がある時、私は解決の手がかりを書物に求めた。本好きの人間が本屋の書棚の前に立つと、必要な本はむこうからとび出してくる。本が私を呼んでくれるのだ。こうして私は多くの貴重な書物に出会った。書物なくしては私は、自分にも、妻にも、子供にも出会えなかったろう。」

 

伊丹十三記念館でこの手書きのメモをはじめて見たとき、ふるえました。私はただ本が好きで、目の前の本を読んできただけにすぎませんが、もしかして伊丹十三が私のために、この言葉を書いてくれたんじゃないかとすら思いました。
写真は撮れなかったので、学芸員の方にお願いして、メモをとらせていただきました。のちに、単行本未収録エッセイを集めた『ぼくの伯父さん』に収録されたのを知って、本棚の目につく場所に置いています。
数多くは紹介できませんが、ページを開くと世界が少し明るく見えるような、そのような本を、今後ご紹介していければ幸いです。

 

 

『ぼくの伯父さん』つるとはな
伊丹十三/著

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

「読書室」主宰

「読書室」主宰 1982年、兵庫県生まれ。大学卒業後、工作社などを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。梅田 蔦屋書店の立ち上げから参加。著書に『千年の読書──人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)、編著書に『本屋という仕事』(世界思想社)がある。写真:濱崎崇

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