「人を癒す」ことを目指す人たちにとって、清潔感ある新鮮な入門書

藤代冥砂 写真家・作家

『癒す人の教科書』光文社
本郷綜海/著

 

スピリチュアルものって、受け入れられる人とそうでない人がはっきり分かれると感じる。嫌いな人は、嫌煙家が喫煙者に対して持つ悪感情よりもさらに大きなものを抱く、ような気がする。

 

私は、全然平気な方だが、それでも受け入れられるものとそうでないものが、結構はっきりとあって、前者は彼らが言っていることが理解できるもの。同意できるかは別として、ああ、そういうことで人が動くのは分かるというのがある。言いたいことは、分かる、私はそれには乗れないけれど、というやつだ。

 

対して、後者、受け入れられないスピリチュアルは、彼らが信じるストーリーに共感することがとても難しいやつだ。

 

これは信仰に近く、一旦そのストーリーを信じて入ってしまえば、全て辻褄が合っているように世界を捉えられるかのようだ。だが、入り口でもたもたしてしまうようだと、信じることは難しい。

 

あと、お金の匂いのするものは、やはり大方の人は後退りしてしまうのではないか。スピリチュアルに限らず、マイナス反応してしまうような分野には、搾取されたり洗脳されたりするような負のイメージがありがちなので。

 

本書「癒す人の教科書」というのは、癒す人、つまりヒーラーになりたい人に向けた本である。

 

これは門外漢にとっては、新鮮な視点だった。

 

一般的に、スピリチュアル系のものは、上から下にというように、教えを受け取るような構図なのに対し、これは教えの与え方、癒しの与え方という、ビジネス本的な視点がある。起業の仕方といった感じなのだ。

 

とはいっても、サロンの開き方とか、値段設定について、などとかの開業方法についての本ではなく、ヒーラーとしての能力の身につけ方や使い方、といったヒーリング能力についてに重きが置かれている。

 

そして、お金のことについては、どう説明するのか、しないのか、という一点が次第に気になりだしたのだが、本書はそれについて明確に触れている。そのことに私は好感を得た。

 

どのように触れているかは、ここには記さないけれど、ちゃんと納得することができるあり方だった。

 

人を癒したい、という善意だけでは立ち行かないのが資本主義のこの世界なので、やはり循環は大切だし、その循環の規模感や意識の持ち方もクリアにすることで、癒すということに現実にフィットした輪郭が与えられてあるなと思えた。

 

このこともふまえ、これから「人を癒す」ことを目指す人たちにとって、入門書として清潔感がある本だと思う。

 

『癒す人の教科書』光文社
本郷綜海/著

この記事を書いた人

藤代冥砂

-fujishiro-meisa-

写真家・作家

90年代から写真家としてのキャリアをスタートさせ、以後エディトリアル、コマーシャル、アートの分野を中心として活動。主な写真集として、2年間のバックパッカー時代の世界一周旅行記『ライドライドライド』、家族との日常を綴った愛しさと切なさに満ちた『もう家に帰ろう』、南米女性を現地で30人撮り下ろした太陽の輝きを感じさせる『肉』、沖縄の神々しい光と色をスピリチュアルに切り取った『あおあお』、高層ホテルの一室にヌードで佇む女性52人を撮った都市論的な,試みでもある『sketches of tokyo』、山岳写真とヌードを対比させる構成が新奇な『山と肌』など、一昨ごとに変わる表現法をスタイルとし、それによって写真を超えていこうとする試みは、アンチスタイルな全体写真家としてユニークな位置にいる。また小説家としても知られ著作に『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』がある。第34回講談社出版文化賞写真賞受賞

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