「女性向け風俗」はアナタの恋愛やセックスへの思い込みをくつがえす、かもしれない。

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『ルポ女性用風俗』筑摩書房
菅野久美子/著

 

 

「恋愛やセックスは、美男美女だけに許された行為である」

 

この一文を読んで、ドキッとした人もいるのではないだろうか。恋愛経験のない10代の頃は、誰もが多かれ少なかれ、恋愛やセックスに対して、このような思い込みを抱いていたはずだ。恋愛もセックスも、ドラマに出てくるような美男美女だけの特権であり、そうではない僕/私には、とてもじゃないがそんなことはできないし、そうしたことが自分の身に起こるなんてことは、一生ありえないだろう…。

 

そう思い込んでモヤモヤしていた時期の記憶がある人は、私を含めて、少なくないだろう。
こうした思い込みは、経験によって消えていく。恋人との初めてのデートや、初めての一夜を経験することで、「な~んだ、こんなものか」「自分でもできるじゃないか」「みんなやっていることなんだ」と思うようになる。

 

一方で、実際に経験する機会がなければ、こうした思い込みは消えずに残り続けることになる。
現代は、サブスクリクションの普及で、いつでもどこでも恋愛ドラマや恋愛映画を見放題、恋愛小説を読み放題、ラブソングを聴き放題になっている。自分で経験する前から、恋愛やセックスを追体験し、「恋愛とは何か」「セックスとは何か」という問いに対する百人百様の答えを知ることができる。

 

しかし、実際に自分で経験する機会がない限り、恋愛やセックスに対する思い込みは決して消えない。むしろ情報過多の中で、どの答えが正しいのかわからなくなった結果、思い込みがさらに強化されてしまうこともある。

 

そんな時代に注目を集めているのが、女性用風俗である。この10年間で、SNSやスマホの普及と並行する形で、女性用風俗の店舗数や利用者は一気に増加した。学生や主婦、会社員などの普通の女性たちにとっても、ドラマや小説の中だけの話ではなく、現実的に利用可能な選択肢の一つになった。

 

本書『ルポ女性用風俗』(ちくま新書)では、女性用風俗を利用することで、あるいは女性用風俗を経営することで、恋愛やセックスに対する思い込みやコンプレックスを乗り越えることを目指した女性たちの声が多数収録されている。

 

彼女たちの語り、そして彼女たちの声に耳を傾ける著者の語りに共通する点があるとすれば、それは「やさしさ」だ。恋愛やセックスは、いずれも相手がいて初めて成り立つものであるがゆえに、「自分の意志だけではコントロールできないもの」である。

 

一方で、自分から動き出さないと、そもそも誰にも出会えないし、何も起こらない。「自分の意志でなんとかしないといけないもの」でもある。

 

「自分の意志だけではコントロールできないけれども、自分の意志でなんとかしないといけない」という矛盾を孕んだものと向き合うことで得られるメリットは、「自分と他人にやさしくなれること」だ。

 

どんなに最善を尽くしても、うまくいかないことがある。どれだけ時間をかけて関係性を作っても、一瞬で壊れてしまうこともある。自分を責めても相手を責めても問題は解決しないのであれば、あとはもう、ありのままの現実を受け入れるしかない。

 

人は現実を受容することによって、自分にやさしくできるようになる。自分にやさしくできるようになれば、他人にもやさしくできるようになる。

 

思い込みにとらわれて、自分や他人を許せなかった人が、女性用風俗という場で身も心も裸になり、思い込みやコンプレックスを乗り越えていくことで、自分も他人も許せるようになっていく。彼女たちがやさしさを身につける過程を読むことで、読み手にもやさしい気持ちが伝わってくる。

 

恋愛やセックスに関する思い込みに囚われている女性にとって、本書はまさに「読む処方箋」になるはずだ。ぜひ本書を手にとって、登場する女性たち、そして著者のやさしさに癒やされてほしい。

 

『ルポ女性用風俗』筑摩書房
菅野久美子/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。NPO法人風テラス理事長。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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