現代のエネルギー問題を地球規模で俯瞰 |ダニエル・ヤーギン 『新しい世界の資源地図』

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『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』東洋経済新報社
ダニエル・ヤーギン/著

 

エネルギー分野の全体像を学ぼうとする時、良いテキストがあまり多くないことに気付く。特定の分野を掘り下げた本はあるものの、全体を俯瞰してくれるガイドにはなかなか出会えない。そうした悩みに答えてくれる本が邦訳された。エネルギー分野の世界的権威であるダニエル・ヤーギン氏が著した渾身の大著である。エネルギーの現在地を知るために必要な論点を「地図」として示し、背景を詳しく解説した。

 

本書の章立てをみると著者の問題意識がわかる。全6部のうち、特に重要な地域を米国、ロシア、中国、中東の4地域とし、エネルギーの未来に影響を及ぼす2つの重要な分野を自動車、気候とした。時代ごとにエネルギー問題の焦点は変化しているが、著者の示す論点は、現代に認識すべきテーマを広範にカバーした。

 

本書を読むと、21世紀に入って以降、エネルギーを取り巻く風景は急速に変化していることがわかる。まず大きな変化は米国のシェール革命である。シェールガス、シェールオイルの開発が進み、米国はエネルギー生産大国に踊り出た。それまでは中東から資源を輸入していただけに、米国は中東の動向を常に意識せざるをえなかったが、自力で十分なエネルギー資源を確保できるようになったことで、米国が「国際問題での柔軟な対応が、可能になった」という指摘は印象深い。資源を他国に依存しない力を持つことになり、国際政治上の優位性につながる現実が理解できる。

 

同じ文脈でロシアは、世界最大の天然ガス産出国として供給先の欧州に影響力を及ぼしている。ロシアのパイプラインはウクライナを通過しており、旧ソ連崩壊後のロシアとウクライナ、そしてその先でつながる欧州とは微妙な関係になってゆく。本書のオリジナル版が書かれたのは2年前だが、現在のウクライナ情勢を予測するような分析がなされているのも興味深い。

 

ロシアが中国との関係を深めようとしている点も紹介される。本書ではそれを「東方シフト」と記しており、ロシアはエネルギー消費大国の中国に原油を売るなどして関係を深めている。かつて反目していた大国同士が、エネルギーを媒介にして接近している様子は、歴史の流れを感じさせる。一方の中国は、習近平国家主席が推進する「一帯一路構想」に基づき、様々な地域でエネルギー資源の確保や開発にアクセスしようとしている。

 

さらに、豊富な原油資源を背景に世界のエネルギー供給の中心になっていた中東が、エネルギー市場の変化を受けて、石油に依存しない国家経済の仕組みを作ろうとしている点なども紹介される。

 

現代、そして未来のエネルギー問題に影響を与えようとしているのが電気自動車である。今後、電気自動車の開発・普及が進むとガソリン車はなくなってしまうのか。近年のトレンドからすぐにでもこうした構図が生まれると想像しがちだが、実はそう単純なものではないことも示される。自動車を巡っては自動運転技術や配車サービスなどの動きもからむため、総合的に考える必要があると本書は示唆する。気候変動問題についても、政治、経済、社会運動が影響し、さらに、今後の電源構成がどう変わるかという点についても、地政学的な観点を含めて考えることになると指摘する。

 

ただ著者は、石油中心の社会は当面続くとの見通しを示しており、それが今後どう変化してゆくかが新たな焦点となる。紙幅を割いて分かりやすく複雑な事象を説明しており、現代のエネルギー問題や地政学に関心のある人には最良の一冊になるだろう。

 

『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』東洋経済新報社
ダニエル・ヤーギン/著

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ビジネス・経済分野を中心にジャーナリスト活動を続けるかたわら、ライフワークとして書評執筆に取り組んでいる。英国の駐在経験で人生と視野が大きく広がった。政治・経済・国際分野のほか、メディア、音楽などにも関心があり、英書翻訳も手がける。

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