2022/10/13
小説宝石
『ループ・オブ・ザ・コード』新潮社
荻堂顕/著
2020年に『擬傷の鳥はつかまらない』で第七回新潮ミステリー大賞を受賞した荻堂顕。第二作の『ループ・オブ・ザ・コード』は二段組、400ページ超の大作だが、これがもう一気読みの面白さ。
舞台は近未来。特定の少数民族のみを殺害する生物兵器を使用したため、〈抹消〉された、とある国。歴史も名前も文化も剥奪され、〈イグノラビムス〉という国名を与えられ、全権を国連が握ったその国の児童たちの間で謎の病が発生。突如、長時間にわたり身体を丸めてコミュニケーションを断絶し、食事を拒否して衰弱していくという。世界生存機関〈WEO〉の現地調査要員のアルフォンソは現地に赴き、情報分析専門官や医師らと調査を進めていく。
と同時に、アルフォンソはWEO事務局長から極秘任務も言い渡される。生物兵器の生みの親の博士が兵器と共に何者かに連れ出されたというのだ。アルフォンは博士と兵器の行方も追うことになる。
国家的、民族的アイデンティティが奪われた国や、近未来の設定がよく練られていて引き込まれる。近未来的なツールやシステム、謎の病の調査方法なども非常にリアル。ただ、ここで描かれる内容は、現代の自分たちの日常に深く関わってくるものである。アイデンティティとは何か、優生思想や反出生主義、家族問題や男女格差、さまざまな差別と偏見、科学と民間信仰、さらには国際機関のあり方まで……。
それらの問題を、アルフォンソが“自分事”として向き合っている点も本作の魅力だ。ある事情から故郷と家族を捨て生きてきた彼は、同性の恋人から生殖補助医療を利用して子供がほしいと持ち掛けられて同意できずにいる。難しい案件に取り組むなかで、彼の中にどんな変化が生まれるかも読みどころ。
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荻堂顕/著