三浦天紗子が読む『子宮』女性四代、八人以上の女たちの運命

小説宝石 

『子宮』河出書房新社
盛可以/著 河村昌子/訳

 

中国湖南省益陽の農村に生まれた戚念慈(チー・ニエンツー)から始まる初(チユー)家の女たちの生き方が、百年に及ぶ中国社会の変化を背景に描かれていく。戚念慈やその娘の呉愛香(ウー・アイシアン)が味わった閉塞感は、呉愛香が産んだ娘たち(六人、うち五女は夭折(ようせつ))や息子の嫁、孫の世代に移るにつれ、選択肢は増えたが、それは結局彼女たちの悩みを深くしただけかもしれない。

 

長女・初雲(チユー・ユン)や次女・初月(チユー・ユエ)は、国家の要請に従って、二子をもうけた後に卵管結紮(けつさつ)をしたが、初雲は夫以外の異性に心惹かれたために再開通させようと考えたりする。三女の初冰(チユー・ビン)もまた、息子を産んだ後に子宮リングを入れた。ところが、のちに外そうとして失敗、子宮を失う。四女の初雪(チユー・シユエ)も不倫相手の子を中絶して不妊になり、一方で、夫の愛人が身ごもるという事態に陥る。姉たちの事情を知る六女・初玉(チユー・ユー)は、妊娠出産そのものへの恐怖と嫌悪が強く、それが恋人との関係をギクシャクさせていく。初家唯一の息子・初来宝(チユー・ライバオ)と妻・頼美麗(ライ・メイリー)(涙なしには聞けない妊娠エピソードあり)の一人娘、初秀(チユー・シウ)は十六歳で身ごもり、産むか堕ろすかをめぐって家族紛争に……。無自覚に女性たちを傷つけ、それでいて自分はジェントルマンなつもりでいる彼女たちの夫やパートナーの欺瞞(ぎまん)が、舌鋒(ぜつぽう)鋭く皮肉交じりに暴かれていくのは痛快だ。

 

本書のキーとなるのは子宮。結婚の失敗や不倫、中絶や流産、避妊の責任、計画出産の義務、情欲の始末、閉経等、子宮を持つがゆえの身体性が女性の人生をかき回していく。そのどうしようもなさが活写された本書には、友人たちのとめどない欲望と嘆きと意思表明で埋め尽くされたおしゃべりを聞いているかのようなリアリティがあり、圧巻の面白さだ。

 

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『尚、赫々(かくかく)たれ 立花宗茂残照』早川書房
羽鳥好之/著

 

武将版「君たちはどう生きるか」

 

どんな栄華や名声を極めようと、誰しもに落日は来る。関ケ原の戦いで西軍につき敗れた立花宗茂が、のちに奇跡的に大名復帰を果たすが、すでに老境の身だ。そんな境地から、“関ケ原”を振り返って検証していくからこそ見えてきた、勝敗を分けたものとは。歴史を推理する楽しさの合間に、戦の虚しさから温かな視点も持ち得た宗茂が、忍耐や後悔や責務とどう向き合うかを描いていく。宗茂が心惹かれた天寿院(千姫)や、女たちのために縁切りに尽力したその娘・天秀尼との交流も見事なサイドストーリーになっている。

 

『子宮』河出書房新社
盛可以/著 河村昌子/訳

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