小説家・矢野隆が語るゲームと小説の交差点(前編) ゲームウォッチ、バーチャ2、メタルギア、ドラクエ5はどこかで創作につながっているのか?
市川淳一『ぼんくら書店員のぼんくRADIO』

ryomiyagi

2020/02/20

 

■ゲームで遊ぶことは小説の創作と関係してくるのか?

 

市川:対戦格闘ゲームについて伺ってきたんですけど、作家さんの目線からRPGとかアドベンチャーゲームで、このテキストや演出がすごいなっていうのはありますか?

 

矢野さん:心の底から心酔しているのは小島秀夫になっちゃいますね。「ポリスノーツ」の頃からすごく好きで、やっぱり「メタルギア」とか。
メタルギア4って賛否があって、「ムービー長えよ!」っていう。でも、それは小島秀夫好きなのか?と。僕はもう手放しで肯定派なので。思想もだし遊び心も、あとは芸が細かい。

 

※ポリスノーツ……1994年にコナミから発売された、21世紀のスペースコロニーを舞台に繰り広げられるSFハードボイルドアドベンチャー。当時コナミに籍を置いていたゲームデザイナー・小島秀夫が率いたゲーム開発チーム「デジタルノーツ」が制作した。(wikipediaより)

 

市川:「このクリエイターさんは次どういうことをやるんだろう?」って思わせる存在ですよね、小島さんって。次はどんなアプローチで?っていう。

 

矢野さん:最新作「DEATH STRANDING」もやっぱりPVとか見るとカッコイイですよね。

 

市川:もうやったんですか?

 

矢野さん:今は「ペルソナ5」の方をやってまして…。

 

一同:(笑)

 

金森さん:これが終わらないと進められない。

 

矢野さん:僕の義理の弟もゲーム好きで、彼はプレイしているらしく。「面白いです」と。

 

市川:メタルギアですごいと思うのが、3の中ボスにジ・エンドっていうキャラがいて。密林でスネークと戦うんですよ。でも、すごいおじいちゃんなんで、ゲーム時間を2週間進めると老衰死してスネークが勝つという。

 

―戦わずして。いや、戦ってるんですけど……。

 

菅さん:ゲームの時間カウントは内蔵されているんですか?

 

市川:そうそう、プレステ2の本体に。「たけしの挑戦状」で宝の地図を1時間日光にさらして待つんですけど、それに通じるところがあると思って。ゲームならではのユーモアが随所に入っているところがメタルギアは好きで。

 

金森さん:前に書店訪問した際に伺ったドラクエの話も。

 

市川:僕はドラクエが本当に大好きで。一番好きなのは、リアルタイムでゲームにはまった3、4、5くらい。

 

3の「遊び人」っているじゃないですか。遊び人だけが「さとりの書」っていうアイテムを使わずに賢者になれる。この設定が僕、大好きで。
人間社会でいうと、裏を垣間見ている人。例えば水商売とか。そういう人ほど結果的には悟りの境地に至れると。瀬戸内寂聴のようなものだと思っています(笑)ヤンキー先生とかね。

 

―酸いも甘いも(笑) わざわざその設定を入れなくてもいいのにやっているのが面白い。

 

市川:だって、いまだに「ぱふぱふ」があるんですよ!? 11になってまで。

 

■ドラクエ5のゲームと映画に思う、「勇者」とは誰のことか

 

市川:あと、ドラクエ5の映画がこの前公開されて結構叩かれたじゃないですか。
でも、(ゲームの方の)ドラクエ5の設定って「主人公が勇者じゃない」んですよ。1から4を通して全部主人公が勇者なのに、5だけ物語の終盤で、主人公じゃないことに気づくんですよね。

 

菅さん:そうでしたっけ。

 

―モブではないけど、一般人みたいな感じなんですよね。

 

金森さん:10年ぐらい石にされた挙句。

 

―息子と娘はあんなアイテムを装備できるのに。

 

金森さん:バカスカ強くなるのに、自分は強くならないという。

 

矢野さん:あれ、お父さん(パパス)もですからね。

 

市川:それって、物語の中の主人公がショックなんじゃなくて、プレイヤーがショックなんですよね。「あ、自分は勇者じゃないんだ」「選ばれた人間じゃないんだ」って。そこから「自分はどうできるんだ」となって、勇者でない自分が魔王に立ち向かっていくストーリー。ゲーム本編が(映画と)似たようなことで、上をいっちゃってると思いますよ。だから映画版のあそこのくだり、いらなくない?って思っちゃった。

 

―ゲームがそのメッセージを伝えているから。

 

市川:ゲーム版でもうやってるんじゃん、っていう。

 

矢野さん:そうですよね~。

 

僕、エンターテインメントですごいなと思うのは、子供の頃とか若い時にやったものが、年取った時に「こんなだったんだ、気づかなかった」となること。最近ドラクエ5をやっていると、パパスに感情移入しちゃう。主人公についても昔はジレンマがあったんですけど、僕も息子がいて、その勇者でもよくなっちゃうんですよ。息子が勇者っていう……。それでいいやって。この主人公でいいって納得できちゃう。昔はやっぱり、嫌ですよ(笑)「俺じゃねーのかよ!」みたいな。

 

金森さん:少年時代編の終わりくらいにパパスからメッセージがあった時、自分なんじゃないかと思いますよね。

 

一同:思う思う!

 

矢野さん:魔法効かないしね。

 

金森さん:でもそうじゃないんだ、っていう。

 

矢野さん:そこも全部含めて、すごいなって。年取ってくると価値観が変わるものって。小説とか漫画とかも、年取って読んでも違うことで感動できているというのは、すごい作品なんだとなりますよね。

 

ボンクラ書店員のぼんくRADIO

ぼんくら書店員・市川

「『竜馬がゆく』と『燃えよ剣』の出版社の違いが分かる」を理由に、自信満々で某チェーンにアルバイトとして入社し10年が経過。光栄のゲームの武将パラメータを眺めながら、歴史小説を読むのが日課のボンクラ書店員。たまに本の帯やポップをデザインしたり、小説の巻末に漫画を描いたりしています。1981年神奈川生まれのAB型。
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