どうする? セカンドオピニオン
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

セカンドオピニオンというのは、なかなか難しいものである。

 

誰しも間違える。

 

それが医師だろうが、教員だろうが、当たり前のことである。

 

だからクライアントや質問者は、「こいつの言っていることは本当だろうか?」と第二、第三の意見を求めに行く。当然のことであるし、自然なことである。専門家だの有識者だの言われている人たちの意見を、無批判に真に受ける必要はない。むしろ、批評的な態度で受け止め、多数の意見を比較考量するのが知的な態度だろう。

 

しかし、セカンドオピニオンを求めに行く人の背中を見送る立場に立つと、胸中複雑なものがあるのもまた事実である。私も教員なので、そういう場面には頻繁に遭遇する。

 

まあ、学生さんに安心感を持たせられない自分の講義が未熟なんだけどね! 重要事項なんかはもっと有名な先生に聞きに行きたくなるよね! うん、それって学生さんの大事な権利。でも、できればこっそりやって欲しいぞ。

 

特に講義内で数値データの複雑なやつなどに触れると、「この老人の記憶力は確かなのだろうか。どうせノートを取るのならば正しいデータを取得しなければ」といっせいにWikipediaにアクセスされ、齟齬があるとこれもいっせいに「間違えてやがるwww」とTwitterに草が生えるのは、微笑ましすぎて、もやっとする。

 

それ、Wikipediaのほうが間違ってるよって言っても、老人の言うことに説得力はないしね!

 

……いきおいに任せて、脱線した。何が言いたかったかと言えば、セカンドオピニオンはやったほうがいい。繰り返しになるが、多くの情報を収集して比較するのは、問題に直面している人が持っている大事な権利である。

 

発達障害の診断と改善のための努力は、未だ発展途上にある取組で、医療機関の人、療育機関の人の語る言葉に、まだばらつきがある。自分の子にあう話、あわない話、受け入れられる話、受け入れられない話、いろいろある。

 

子どもや家庭にとって最善の道を見つけるために、できるだけたくさんの話を聞いておこう。ただし、おおっぴらにやる必要はない。どんな先生だって、「うーん、やっぱり他の先生の診断も受けますね」と言われて、心から嬉しい人はいない。患者さんの正当な権利だとわかっていても、それを啓蒙していく立場でも、なんとなく自分の知見や技能を否定されて気分になってしょんぼりするものなのである。

 

何もひた隠しにする必要はない。いちいち「この人はまさかセカンドオピニオンに行っていないだろうな」などと確認して回るほど暇な先生はいない。黙っておくだけで十分だ。

 

たまに「隠しておくのは良くない」と、何もかもつまびらかにする人がいるのだが、そのときは「今の恋人に、昔の恋人の話を聞かれたとして、全部教える馬鹿はいない」という、あの警句を思い出して欲しい。

 

私も、日本の最高学府である、えーと、T大と呼ばれる匿名の大学で診察を受けたときに、えらい目にあったことがある。

 

「どこかで以前に診察を受けたことがありますか?」

 

「はい、J医大附属です」

 

「なるほど。街の病院ですね」

 

「……えーっと、大学病院ですが」

 

「街の病院ですね」

 

プライド、高いのだ。

 

こんなこともあった。

 

「あなたも大学の人ですか。この領域の論文などお読みになりましたか」

 

「わからないながら、何本か読んでみました」

 

「ほう、どの先生の?」

 

「**先生です」

 

「あの学派はいかん!!」

 

(げっ!)

 

この学派問題というのは、本当に地雷なのだ。私は課外活動ばかりやっている研究者だが、さすがに自分の分野であれば、誰が誰の派閥で……くらいの知識は持っている。しかし、医療分野の学派なんて知らんのだ。このときは、確実に地雷の信管の中央を踏み抜いてしまった!

 

大演説を聞き終わったときにはへとへとになり、顔をあわせる度に嫌みを言われるようになってしまった。もー、頂点にいる人なんだからさ、もっと鷹揚に構えておきなよー。

 

ただ、いわゆるドクターショッピングと呼ばれる、次から次へとお医者さんを渡り歩く行為はあまりやらない方がいい。お金ばかりかかるし、結局は口当たりのいいことを言ってくれる先生のところで引っかかる。医療関係の人だとさすがに少ないが、民間療育だと(もちろん、いい人がほとんどであることは前提だが)そんなはずないだろ!と思わず突っ込まずには居られないほどの子どもへの評価と薔薇色のビジョンを示して、リピーターを獲得しようとする機関がある。

 

障害児の親なんて、どこに行っても否定される経験ばかりなので、暗黒神殿の中に垂らされた蜘蛛の糸のように、わかっちゃいるけどすがってしまうのだ。でも、実態とかけ離れた認識に基づく療育にメリットはない。

 

医療機関、療育機関のご利用はどうぞ計画的に。

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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