自閉症と式典は相性がよくない
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

式典の多い季節である。

 

毎年、この時期になると緊張する。自閉症と式典は食い合わせが悪い。少なくとも、ぼくの子はそうだ。

 

以前に自閉症の類型に触れたことがあるが、他の人と感覚がずれていたり、うまくやり取りできないことは共通していても、「うまくやれない」の方向性はけっこう違う。

 

1. 他人にまったく興味がなく、自分の世界に没頭してしまう(なんにも言うこと聞かない。耳に入ってない)。
2. 他人にまったく興味がなく、言われたことになんでも従う。
3. 他人に興味がありすぎて、関わりたくてしょうがない(へんな関わり方をする)。

 

ぱっと見ただけでも、だいぶ違いそうである。式典に参加するに際して、2の子をとても羨ましく思う。っていうか、2は就学でも就労でも得だと思う。

 

多様性とか、自分で考える力とか色々言うけど、やっぱり寡黙で従順な新入社員の潜在需要はとても大きいと感じる。十分に能力の高い、定型発達の大学院生にだって本音ではそれを求めている企業は多い。突拍子もないことをしでかすよりは、おとなしい子のほうがずっと安心して仕事を任せられる。

 

一般的な傾向として、3の子が能力が高いと仰るお医者さんもいるので、2の子にも大変なことは色々あるだろし、実際に大変な現場をいくつも見ているけど、いいなーとは思うのだ。

 

ぼくの子は残念ながら、2の特性にはかすったこともなかった。多くの時間を1として過ごし、たまに3が混じるようなイメージである。空気を読む能力が重要視される日本社会では最悪の表出の仕方である。

 

もっとも、産業構造が変化して、古典的な肉体労働、頭脳労働ではなく、感情労働的な働き方がどの業種でも要求され、学校でもそこへ向けての備えをするいま、自閉の子はたぶんどの世界でも辛いのだ。近年、学校が子どもの「生きる力」を醸成するために用意しているメニュー、たとえばアクティブラーニングに参加するのは嫌だと思う子は多いと思う。能力の優劣というよりは、そのやり方に向いていないのである。

 

なので、ぼくの子は式典などのかっちりしたアクティビティに参加できないことも多かった。ぼく自身も式典というか、いっそイベント全般が苦手で、大雨で遠足が流れると大喜びしたし、忌引きで卒業式に出られなかったりすると喜びを抑えきれないような子だったので、どうしても式典に出なきゃという気持ちは皆無なのだが、本人が出るつもりでいて出られなくなるのは可哀想だなと思った。

 

最初から出ないと思っているのと、出るつもりで出られないのはだいぶ違う。ぼくの子が通った幼稚園では、これでかなり嫌な思いをした。自分の子が式典向けではないのはよくわかっているので、「能力的にまだ無理かなと思うんですけど」とこちらから提案するのだが、そこの園長さんが割と「そうは言っても仲間なんだから、一緒にやりましょう」という人だったのだ。

 

でも、式典の練習をして、本人もモチベーションを高めていると、やっぱり当日何かあって問題になるのが不安になるのか、「やっぱり自粛くださいますか?」と前日や当日の朝に言われる。これがけっこうあった。

 

出られないこと自体はいいのだ。能力的に厳しいのは百も承知だし、厳粛であるべき式典を他の子の奇っ怪な行動で邪魔されたら、ご両親が立腹するのも当たり前である。でも、突然のキャンセルは辛い。

 

予め出ないとか、出席したけどやっぱりもぞもぞしてるからつまみ出されるなら本人的にも納得できるのだが、何にもしてないうちから「やっぱり今日はやめておこうか」と弾かれてしまうのは、感情に疎そうな自閉の子であっても堪えるのである。それなら、最初から無理だと言ってくれたほうがずっと良かった。

 

また、シャドーの導入は式典の時にもとても効くのだけれど、まだまだ認めてくれない幼稚園や学校が多いのは、ちょっと残念なことである。

 

そんなことが続いたので、その幼稚園からは1年ほどで転園してしまった。いま思い返しても、やっぱりあまり良い想い出ではない。

 

お子さんが障害をお持ちのご家庭は、自分の子にも色々な経験をさせてあげたいなあという思いと、他の子に迷惑をかけちゃ悪いなあという思いの狭間で逡巡する場面が多いと思う。どちらを選択するかは状況によるが、後悔のないように、そして一度決めてお子さんのマインドが定まった後で急に変更しないように選んでいただければと思う。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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