自閉傾向のある子にとっても、学校は楽しい場所
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

コロナウイルスをめぐる騒動で、実感したのだけれども。

 

どれだけ家に引きこもっても、飽きない。

 

書籍、コミック、アニメ、ゲーム。残りの人生をすべて費やしても、味わい尽くせないほどのストックがある。

 

ふだんだったら、いい年した大人がこれらに耽溺して何百時間も消費するのは確実に眉をひそめられるけれど、いまはそれが社会貢献になるという。

 

ぼくは日ごろ社会に貢献していない人間なので、今回限りは一世一代の社会貢献をしようと思う。おうちでゲームをして、アニメを見よう。余計なことは絶対何もしない。

 

しかも、まるで狙い澄ましたかのように4月10日にはFF7Rが発売になった。これ、嫌でも社会貢献できるやつ。もうこっちの世界に戻ってこれなくてもいいや。

 

これは久しぶりの感覚だ。高校に行かずに5年間を投じ、信長の野望と大戦略をやり続けた、あの至福の日々を思い出す。最近の自分が年老いることで、いかに人生の比重が仕事に移ってしまっていたかを痛感した。やっぱり人はゲームしないと。生きてるって実感がわいてこない。久しぶりに、人生を自分の手に取り戻した気がした。人生は素晴らしい。

 

こんなことを書くと、「うちの子がこんなになっちゃったら、どうしよう」と恐れおののく方もおられると思う。でも、そんなに心配しなくていい。自閉傾向のある子は上記のようなイメージを持たれがちだけれども、実態としては本当に多くのバリエーションと振れ幅があり、かなりの子が学校生活を楽しんでいると思うからだ。

 

ぼくは小学生の頃から何だか生きづらいなあと思っていたし、人生ではリスクを取っていこうと思っていた。事故とか病気とか、積極的に回避したり対策したりしないほうが、早く楽になれるだろうと考えていたのだ。

 

だから、今回のコロナ禍でもかなり鈍感な反応しかしていないと思う。もちろん、人にうつしでもしたら大変だし、FF7Rのために巣ごもりしているので結果的に超安全行動を取っているのだけれども、自分がかかるぶんにはまぁ・・・・・・という感じである。ところがぼくの子はコロナウイルスをめちゃくちゃ怖がっているのである。

 

「たまには、体を動かすためにその辺を歩いてこようか」
「コロナにかかりたくないから行かない」
「ソーシャルディスタンス戦略準拠なら、散歩はいいらしいよ」
「可能性は減らすべき。早く終わらせて学校行きたい」

 

自分が小学生のときとはえらい違いである。ぼくは学校なんてなければないほどよかった。

 

「学校好きなんだ?」
「友だちに会いたいからね。あと長生きしたい」

 

これは決して友だちとうまく行っていることを意味しない。いや、むしろうまく行っていない。多くの自閉症児にとって対人コミュニケーションは鬼門である。ぼくの子は、人の話を聞いていない。誰かに話しかけるのは好きだが、相手が自分の話をどう思っているのかも、まったく気にしていない。

 

コミュニケーションに双方向性はなく、電気通信でいえば単向通信、ひいき目に見て半二重通信である。どう考えてもコミュニケーションに難しかないのだが、学校に行くのは楽しそうだ。

 

これはぼくの薫陶がよいわけでも、本人の能力値が高いわけでもない。リアルな人生を楽しむスキルだろう。そして、自閉症の子は意外とこのスキルが備わっている子が多いと思うのである。

 

しゃべらない子も、座っていられない子も、几帳面な子もいるのだが、けっこうみんな学校が好きそうだ。特別支援級や特別支援校というと暗いイメージを持つ方も多いかもしれないが、実態はわりと清潔で楽しげである。少なくとも、自閉傾向のある子がみんなゲームに耽溺したり、現実よりも妄想の方を好きになるわけではないから、安心して欲しい。

 

「今は引きこもることが社会貢献だから、一緒にゲームやってみない?」
「一日中やるようになっちゃうのが怖いからやらない。あと、外に出ないときも、ちゃんとごはんは食べたほうがいい」

 

正論だ。しかし、余計なお世話である。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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