自閉症の子はオンライン授業に向いている!
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

Meetで授業があった。

 

定型発達の子も、自閉の子も。

 

企業なら躊躇なくZoomかTeams、Webexあたりを選びそうだけど、学校系のユーザはふだんからGoogleのサービスに慣れているし、妥当なところかもしれない。

 

最初はうまくやれるのかなあと、ちょっと心配だった。

 

回線品質がばらばらの環境で使うビデオ会議ツールは、独特の遅延感があるし、そもそもコミュニケーション苦手なのにどうなんだろう、いっそチャットのほうがいいのでは? くらいに思っていた。

 

ところが。これが案外うまくいったのである。

 

自閉傾向の子が、クラスルームトレーニングを苦手にする場合、理由はいくつかに集約できる。

 

・座っていられない
・(聞き取りが苦手なので)話の早さについていけない
・話す順番がわからない
・誰に注目すればいいのかわからない

 

これは、まあそうなんだろうと思う。

 

ここに書かれたことは、ぼくも苦手だ。児童・生徒だったころも、今も。いや、座ってはいられるけど。

 

学校は好きではなかった。朝起きなきゃいけないから。でも、それはいい。先生のたいくつな話を聞いてるのもいい、どうせ人生のほとんどはたいくつだ。いちばん嫌なのは児童が主体性を持って、発言とともに取り組むタイプの授業である。

 

アクティブラーニング全盛の今の時期に子どもでなくて、ほんとうによかった!!

 

いや、いいんですよ。アクティブラーニング。ぼくも、「どうですか?」と聞かれたら、「きっと、いいものですよ」と答える。でも、自分が受けたいかと言われると、絶対に向いていない。

 

正解のない問題に対して、みんなで議論! できないよ。先生に当てられる可能性があるだけで、どきどきして授業が頭に入らないのに、きっと学習効率が落ちてしまう。あっちこっちで発言が始まったら、どこを見ていいのかすらわからないし。

 

本当ならずっと壁の花になってちんまりしていたいけれど、きっとそれだと怒られるので(怒られるのに弱い)、何か無難なことを発言するとして、その場では何が無難な発言なのかを探る能力が低い。

 

仮にウェザートーク的な絶対の無難さを持つテーマを奇蹟のような確率で思いついたとして、いつ発言していいのかわからない。いまがそのタイミングなのか、それとも順番を待つのか、待つとして誰の次に話し始めるといちばん目立たずに事を終われるのか。

 

小学校の教室というのは、極めて高度な政治的判断に溢れているのだ。みんなよくあんなに難解なミッションを、表情も変えずにこなしていたものだと思う。ぼくは成績のいい子だったけど(成績しかよくなかった)、とても自己評価の低い子だった。そりゃあそうだ。日常会話を満足にこなせる子たちのほうが絶対に有意な人間である。すでに絶対に手の届かない高みに彼ら、彼女らはいた。

 

この特質を受け継がせてしまったぼくの子は本当に申し訳ないなあと思う。そういえばぼくの子は、ぼくには絶対なかった、「何の空気も読まずに、会話に割り込める」特殊技能を持っているが、それは事態を好転させる場合も悪化させる場合もあるハイリスクな能力だ。

 

ところが、である!

 

Meetの授業はとってもいいのである。

 

しゃべっている人は常に大写しだ。嫌でも、この人に注目すればいいんだ、この人の話さえ理解すればいいんだと、わからせてくれる。これだけでも、大助かりである!

 

しかも、モデレータがつく場合、次に誰がしゃべればいいのかは、先方が割り振ってくれる! 必死の思いで、それこそ人の話が頭に入らなくなるくらい、「おれはいつしゃべればいいんだ」と嫌な感じの汗をかきながら硬直し続けなくていいのだ。状況は向こうからやってくる!

 

聞き取れなかったら、録画しておいたコンテンツを見返せばいい。ゆっくり再生することもできる。冴えない感じで「えーと、もう一度お願いできますか?」などと聞いて、人の話の腰を折ってしまったり、会話の場をしらけさせなくてもいいのだ。なんて気が楽なんだろう! まるで自分がいっぱしの人間になった気持ちだ。どうしても逃げたくなったら、通信回線の不調を理由に落ちることだってできる。ぼくにとっては、ほとんど万能のツールである。

 

ぼくの子もいたくMeetを気に入って、さくさくと授業を進めていた。やつはパソコンやタブレットの前だと、正座すら長時間していられるのだ。今のところのトラブルは双子の片割れと授業時間が重なって、機材の取り合いになったくらいである。

 

ずっとうちにいたら身体に悪いし、友だちとのふれあいも楽しんで欲しいけど、遠隔授業は十分以上に素敵だった。自分の遠隔会議も含めて、「もう終わっちゃうのかあ」という気分である。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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