ryomiyagi
2020/09/23
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2020/09/23
出版差し止めになることなく、ぶじ発刊となった『バブル』(光文社・9月17日発売)。
発売日を迎え、私は大阪にいた。
道上洋三さんのラジオ番組「おはようパーソナリティ道上洋三です」(大阪・ABCラジオ)に生出演するためだった。
道上さんの番組に呼んでいただいたのは、初めてではない。
いちばん最初に出演させていただいたとき、私は初めての書き下ろし本『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)を出したあとで、次回作の「会社と私」を準備していた。
『毛の力~』は私が<クロテン>(毛皮獣)を探しにロシアへ行くという変わった話で、読んでくれた人は「こんなヘンな本を初めて読んだ」と言い、業界関係者は「こんなフシギな本がよく出版社の企画を通ったもんだ」と驚き、しかし「この本は100万部売れる!」と言った変わり者の書店員さんもいたりして、いっとき一部の話題を呼んだがちっとも売れず、先日、紙の本は絶版になってしまったのであるが、とにかくこの本が出版されたことで、私は幻冬舎の編集者だった過去と決別し、物書きとして再出発しようと心に決めた。そして、「次回作では自らの会社時代に向き合おう」と。
でそのときは、「会社と私」への意欲と決意を聞いてもらったところで話が終わっていた。
あれから4年半――こうして「会社と私」あらため『バブル』を持って、道上さんのスタジオを再訪することができて、感無量である。
道上洋三さんは、私の生まれた昭和40年に朝日放送に入社され、会社人生のほとんどを「毎朝の生放送」という、キッタハッタのメディア業界の第一線をつとめてこられた。メインパーソナリティをされている「おはパソ」は来年45周年を迎える長寿番組なのだ。
道上さんのインタビューのキレの鋭さに、いつも圧倒される。どっかに話が飛びそうで、飛んでもしかしちゃんとラストに核心を貫いてくる怖さがあって、もともとお持ちのセンスに長年継続されてきたLIVEの蓄積とはこういうものかと感動する。
私自身もインタビューの経験ということでは千本ノック並みにやっているけれど、現場に立ち合うのと、毎日毎日メインをはるのとでは大違いだ。
今回は、スタジオに入ると席の前にそれぞれコロナ感染対策用の透明プラスチックの衝立が置かれており、「テレビで見るのと一緒だ」と思った。
久しぶりにお会いした道上さんは、前回よりも穏やかさが増した感じで、話のトーンも落ち着いておられたが、77歳になられる現在もやはり前とおんなじ怖さがあった。
20分ほどのゲストコーナーが終了してマイクが切れ、CM・交通情報に入ると、
「さいごにおっしゃったのが、いちばん言いたかったことでしょう?」
とすかさず、言われた。
そうなんです、道上さん。
<会社を離れる日は誰にでも公平に、いつかはやってくる>
スタジオをあとにする前、記念写真を撮った。
こちらもコロナ中につき、ふだんのツーショットより、二人が少し離れている写真になった。
「ミルコさんが会社を離れたあと、どう生きたのか。今度は<バブルのあと>を書いてください。そして次回は――新しい時代について、話をしましょう」
と帰り際に、言ってくださった。
ちなみに、道上さんはすでに会社を離れている。朝日放送は退社され、いまは専属契約として番組を持っておられるのだ。
次にお会いする日には、道上さんの<バブルのあと>を、逆インタビューしてみたい。
『バブル』
山口ミルコ / 著
illustration:飯田淳
毎週水曜日更新
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