缶に絵画を用いた先駆け的存在。「タカセ」の“東郷青児”クッキー缶
中田ぷう「素晴らしきお菓子の缶の世界」

ryomiyagi

2020/08/14

お菓子の缶。それは私たちの暮らしのいちばん身近にある“芸術品”。ただお菓子を入れて売っているのではなく、中には思わぬ名画が使われていたり、著名なデザイナーが手がけていたりするのです。お菓子の缶を集めて40年以上。フードジャーナリストのわたくしこと中田ぷうが、知れば知るほど奥深い“お菓子の缶”の世界へご案内します。

 

 

昭和40年代に取り扱いを開始した「タカセ洋菓子」の「クッキーズ 大」。50年近く経った今も多くの人に愛されている缶入りクッキーで、東郷青児氏のファンはもちろん、昭和レトロマニアたちの間でも人気は健在。未だ日本全国からの注文が絶えないクッキー缶の魅力に迫ります。

 

 

「タカセ洋菓子」は東京・JR池袋駅東口を出てすぐのところにある、大正9年創業、当初はパン屋としてスタートした老舗洋菓子店。私も幼い頃、祖父によくここの喫茶店に連れてきてもらった記憶があります。大人になってからも池袋で買い物をしたり映画を見る際は、ここの喫茶室のモーニングを食べてから繰り出すのがお決まりになっています。

 

「タカセ」のために東郷氏が描きおろした原画がベース

 

 

池袋本店1Fの売り場にはさまざまなケーキに焼き菓子、そしてパンが売られています。ガラスのショーケースの中には、昭和を彷彿とさせる懐かしいデザインのケーキが揃うのも「タカセ」ならではの魅力。そのガラスのショーケースの中にひっそりとあるのが「クッキーズ 大」。かわいらしいケーキの中、異彩を放つ女性像が描かれた缶……。今でこそ絵画をお菓子の缶のフタに印刷することはめずらしくもなんともありませんが、こちらは昭和40年代からある商品(詳細については「タカセ」側も不明)。当時としては“最先端の贈り物”だったことでしょう。
こちらの絵は昭和37年、池袋本店の新築完成に伴い、屋号を「タカセ」に変更した際、当時、人気画家であった東郷青児氏に依頼して描いてもらった絵画を使用。「タカセ」と東郷青児氏の縁は深く、現在の建物に建て直す前の店舗にはレストランの壁に大きな東郷青児氏の絵画を飾っていたこともあったのだそう(一部絵画は現在でも喫茶・レストランに飾ってあります)。

 

当時の画家にしてはめずらしく雑貨のデザインや本の装丁も手がけた東郷青児氏。そのため、自身の絵画がクッキーの缶に使用されることもいとわなかったのかもしれません。東郷氏、存命中に「クッキーズ 大」は発売され、今日に至るまで多くの人に愛され続けています。

 

包み紙の絵も東郷氏によるもの

 

 

そしてこのクッキーを買ったときの包み紙。ファンシーな絵柄とパステル調の色使いで、今まで一体こちらは誰が描いたものなのだろうと思ったら、こちらも東郷青児氏によるもの。こんなにも身近に“小さな美術品”を楽しめるなんてすごく素敵なことだと思いませんか?

 

「タカセ」と言ったら……?

 

 

左から「アップルロール」540円、「アーモンドチュイル」(3個入り400円、9個入り1200円)、「あんぱん」(1個150円)

 

長い歴史を持つお店ですから、取り扱い商品もたくさんあります。ぜひお店に行く機会があったら「クッキーズ 大」だけでなく、他の名品の存在も忘れないでください。
「アップルロール」に「あんぱん」、「アーモンドチュイル」。「タカセ」の昔からの看板商品と言ったらこの3つ。
ふわっふわのパンにりんごやラム酒漬けレーズン、オレンジピールが入った「アップルロール」はもはやパンというよりケーキに近い贅沢さ。
そして“タカセのあんぱん”は、昔ながらのしっかりと甘いあんをたっぷり使っているのが特徴。こちらももはやあんぱんというよりも“和菓子”の域に入るおいしさ! 自家製のあんこのおいしさにはちょっと驚くと思います(ちなみにこの自家製あんこをつかった“あんみつドーナツ”も古くからあるパンで、私は大好きです)。
「タカセ」オリジナルの焼き菓子「アーモンドチュイル」。バター、はちみつ、生クリームと一緒に煮詰めた高級スライスアーモンドをビスケットの上にのせたお菓子で、こちらも古くある逸品です。

 

公式HP
オンラインショップ

「素晴らしきお菓子の缶の世界」

中田ぷう

ライター・編集者。缶収集家であり、3歳のころからお菓子の缶を集め始める。現在6畳一間が新旧の缶で埋め尽くされ、家族に迷惑がられている。一方でカルディ歴26年、コストコ歴19年のキャリアを持ち、業務スーパーマニアとしても雑誌やTVでも活動する。インスタグラム:@pu_nakata
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