akane
2019/05/08
akane
2019/05/08
シカゴ・カブス移籍後は故障や不調。今季も主に制球に苦しみ、不本意な投球が続いていたダルビッシュ有。前回登板(5月4日のカージナルス戦)も黒星こそつかなかったものの、4回0/3を投げて1本塁打を含む6安打5失点、5四球4奪三振、2暴投と良い結果には繋がらなかった。
不安定な投球内容が続いているが、復調のヒントを探りたい。
なお、先に断わっておくと、私が指摘するまでもなく課題は認識していて、それをいかに克服するかに取り組んでいると思う。 トッププロはわずか数センチの調整が求められる世界で戦っている。素人の意見も取り入れてくれるダルビッシュ選手だからと、素人評論家がああだこうだ言い過ぎるのもまた問題だろう(自戒を込めて)。
当然だが、子供の頃から野球を極めてきたその道の専門家であるプロ選手は、経験も感覚も一般人とは比較にならない。外から見て色々と語るのは一興であるにせよ、やはり身の程はわきまえて見る姿勢が必要だと感じる。
さて、鍵となるのはやはり、今期のベストピッチングを披露した4月27日のダイヤモンドバックス戦だろう。
この試合では6回2安打1失点8奪三振と好投し、今季初のQSを達成。2勝目(3敗)をあげた。
(ダイヤモンドバックス戦のハイライト)
ダルビッシュ白星!6回8三振1失点の好投で、見事今季2勝目をマーク!@faridyu#日本人選手情報 pic.twitter.com/4iTkRDQoav
— MLB Japan (@MLBJapan) 2019年4月28日
この日も初回から制球に苦しんだダルビッシュ。初回から四球や2ベースで満塁のピンチを招いたが、三振とファーストゴロで何とか凌ぐ。2回も投手相手に頭の上をボールが通過するほどすっぽ抜けるなど制球が乱れ、2アウト1,2塁のピンチとなるものの、92マイルのスプリットでエスコバーを三振に切って取り、無失点で切り抜けた。
結果だけ見ればこの試合も5つの四死球を出しており、まだ完璧とは言えないかもしれない。しかし、ひょっとするとこのボールが今季の、そしてダルビッシュの今後のターニングポイントとなった可能性すらあると見ている。
解禁したスプリット
3回の突然のスプリット解禁びっくりしたw質もかなり良い
4シームは引っ掛けたり出力が安定しなかったりするが、スプリット/スラットは安定して腕が振れてたな
今まで入ってくるボールは張りこまれている感があったが、これでスライダーもより効いてくるんじゃないかhttps://t.co/l0ZKYpWKXA pic.twitter.com/1rM55EBw8R— rani (@n_cing10) 2019年4月28日
3回以降は見違えるような投球を見せ、三者連続三振を奪い2回から4連続奪三振。大荒れだった2回までに56球を投じていたが、それ以降は10人連続でアウトに取るなど、6回までソロホームランの1失点にまとめ、今季最多の110球を投げて見違えるような投球を見せた。
元々スリークォーター気味の印象が強いダルビッシュだが、トミー・ジョン手術から復帰した2016年以降は腕の角度が上がっており、これが結果として高回転のフォーシームのホップ幅を強め、カーブやスライダーの落差を大きくし、カッターの落差も大きくなってちょうど「スラット」して、現代メジャーリーグに適応したピッチングを可能とさせた。2016年は100イニング以上を投げた投手として指標的には最高の結果を残した。
2017年のトレード期限にドジャースへ移籍した後は、スライダーの変化を大きくするために少し腕の角度を下げるなどの調整を行っており、それが結果として「お股ツーシーム」のような横変化を生み出すこととなった。
しかし、昨年カブスへFA移籍すると、腕の角度が更に下がっていった。2016年と比較すると2018年は0.35フィート(約10cm)もリリースポイントが下がった。その結果、フォーシームの伸びが小さくなり、 スライダーやカッターの落差が小さくなって、制球も左右へのブレが大きくなった。そして肘の故障をしてしまい、2018年は8試合の登板で1勝という不本意なシーズンに終わった。
復活を期して望んだ今シーズン。やはりブランクや故障による心理的な影響などもあったのだろう。制球が定まらず四球を連発し、本来の投球ができずにいた。初登板では7四球を出すなど荒れに荒れており、リリースポイントもさらに下がっていた。
下がったアングルからある意味強引にマッスラの軌道を作っていたため、抜けたり引っかけたりとボールが暴れ、スピードも低下していた。スライダーの落差も小さくなり、見極められてなかなか空振りを奪えないでいた。
ダイヤモンドバックス戦もまた初回から同じような投球が続き、TV観戦しながら「このままではまずい」と内心思っていた。そんな中で、解禁したスプリット。
試合後のインタビューで語っていたように、上から叩くように投げたこのスプリットで良いフィーリングを得ると、最後まで同じ感覚で投げたとのことだ。
試合中に何か指標やデータを見たわけではないが、3回以降は明らかにフォームとボールが変わったように感じた。これまで苦しんでいるように見えた、どうもしっくりこない、なんとも言えないフォームの引っかかりが消えた。上半身が前かがみになり、腕が下がってリリースとフィニッシュの角度が一致しなかった違和感が消え、スライダーやスラッターの落差も大きくなった。ボールの横へのばらつきが減り、フォーシームはまっすぐとなり、上から角度がついた。試合後に3回からフォームを変えたことと、その内容がまさにであったことをツイートしてもらった。
変えたタイミングも変えたことも見事に当たってるんだよなぁ笑 https://t.co/Pk0ykTPHXD
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2019年4月28日
試合後にデータを確認すると、3回以降リリースポイントは2回までよりわずか0.1~0.2インチ程だが、上がっていた。このわずか2~5cmが、劇的な違いを産む。
カッターとスライダーの落差も、これまでの試合よりも大きくなっていた。左手のグラブの位置がわずかに上がったことで、上半身が前かがみになって腕が下がりがちだった課題も突如として解決した。
よく見ないとわからない、ほんの僅かなフォームの違いである。だが、これによって上半身の前傾が緩和し左手が上がって、結果として右腕も上から叩けるようになった
2回(左)までのフォームと3回(右)からのフォームは別人に見えた
わずかな差ではあるけど左腕の使い方がリラックスしてる
開きを抑えるためのガチガチ感がなくなって回転の邪魔にならない所にスっと収まってる感があったイメージ的には術後明けのフォームとか2013年の8月位のフォームを思い出した pic.twitter.com/PCOgPLkJA1
— ワンダフル (@to_be_a_SAIKYO) 2019年4月28日
なかなか調子の上がらない今季のダルビッシュ。しかし、それでも悪いなりに抜群のボールがある。スラッターである。指標的な分類上はカッターとなるこのボールだが、被打率は1割前後で、 高い空振り率とゴロ率を誇る。最高の球質を見せており、指標的にも抜群だ。カッターの指標でメジャー2位で、バーランダーのスライダーとも同程度だ。
現在は投球割合の15%程度だが、個人的には25%程度にまで比率を上げても良いと感じる。ダルビッシュのスラッター(分類上はカッター)はストライク率が70%以上と高いにもかかわらず、ゾーン内では70%程度、全体で60%程度のコンタクト率である
読者の中にもカットボールといえば打たせて取るイメージを抱く方がいるかもしれないが、実際はもはや、一番空振りも取れるボールである。スライダーの1種と思ってほしい。
試合後に、スラッターについてTwitterで解説してくれたのが実にわかりやすい。
要するに意識してカットボールを落として投げており、
カッターを意識的に落としてます。
あとその2人にはみんな打たれているんで。— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2019年4月28日
縦のスライダーよりのカッターといった質のボールである。
多分縦のスライダーよりのカッターですかね? 分類がかなり難しいです。
あの時はデッドボールでいいから塁に出たいと思うぐらい気合い入ってました笑
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2019年4月28日
スラッターの凄さは拙著「#お股本」こと『セイバーメトリクスの落とし穴』で詳しく書いたので、ぜひ見ていただきたい。
88マイル前後の「最適バランス」のスラッター
シカゴカブス ダルビッシュ有(@faridyu )
クリスチャン・ウォーカーへのスラッター2球88マイル前後の球速とバットに当たらない程度の変化量という最適バランスのスラット pic.twitter.com/QUUBWO8yag
— tanaka13@凍結垢 (@brengunigirisu1) 2019年4月28日
ダイヤモンドバックス戦の3回以降は、元から良かったこの落ちるカッター(縦のスライダーよりのカッター、お股的に言えばスラッター)がさらに上から投げ下ろす形となり、落差が出た。空振りを奪えて、たとえバットに当たってもサードゴロやファーストゴロとなる最高の球質となっていた。
スラッターでサードゴロに打ち取るも味方のエラーで出塁された直後の打者に対して、初球の88マイルのスラッターでサードゴロ併殺を奪うなど、実用性と効率性の高さを見せた。
体を縦回転に使い、腕を上から振り下ろせるようになれば、スラッターとスプリットがストレートと似た軌道から左右に急に曲がり落ち、ダイヤモンドバックス戦の3回以降のように、あっさりと打者を打ち取れるようになるだろう。大きく変化するスライダーも落差が増して、パワーカーブのように使えるはずだ。
どうも今季のMLBはボールが更に飛び、打者は高めに伸びるストレートに対応し、ストライクゾーンは狭まっているようだ。そのため、体を縦に使って上下の変化で勝負しないとより難しくなっている一方で、落とせばあっさりと打ち取れるようになっている。低いアングルからのピッチングや横の大きな変化球を武器としている投手は苦しんでいるようにも見える(あくまで体感なので、後々確認する必要はあるだろうが)。
ひょっとするとあの2回に投じたスプリットで体を縦回転に、投球アングルを上から叩くように投げる感覚がつかめたとしたら、今後は支配的な投球も期待できる。
なお、Statcastなどの機械判定では、ダルビッシュのスプリットはスピードがあるためシンカー(ツーシーム)扱いとなっているが、今季はマーリンズ戦での99マイルなど数球しか投げていなかった(指標もキレも良いため前回のカージナルス戦では多投していた)。
スラッターはカッターに分類されている。こうした機械判定と指標のみを見て、ツーシームとカッターを投げれば良いと考える分析は浅いと言わざるを得ない。本質はフォーシームとツーシームで基本の軌道を作り、スラットとスプリットを落とすことだ。これだけボールが飛び、速球が狙い打たれているとなると、
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