革ジャンの契りを交わした義兄弟、電撃的な大発明をする【第59回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

43位
『ラモーンズ』ラモーンズ(1976年/Sire/米)

Genre: Punk Rock
Ramones – Ramones (1976) Sire, US
(RS 33 / NME 127) 468 + 374 = 842

 

 

Tracks:
M1: Blitzkrieg Bop, M2: Beat on the Brat, M3: Judy Is a Punk, M4: I Wanna Be Your Boyfriend, M5: Chain Saw, M6: Now I Wanna Sniff Some Glue, M7: I Don’t Wanna Go Down to the Basement, M8: Loudmouth, M9: Havana Affair, M10:Listen to My Heart, M11: 53rd & 3rd, M12: Let’s Dance, M13: I Don’t Wanna Walk Around with You, M14: Today Your Love, Tomorrow the World

 

イギリス人は恩を忘れたのか。なんだこの順位は! 本作がなければ、ロンドン・パンクはかけらもない。彼ら76年のロンドン公演には、セックス・ピストルズやクラッシュの面々が楽屋にまで押しかけた。そしてみんなラモーンズの音楽を真似た……音楽スタイルとしての「パンク・ロック」の、どう少なめに見積もっても75%は、ただラモーンズの発明だ。ガレージ・ロックなどの影響のもと、彼らが突然に「実用化」してしまったスタイルの要諦がすべて、このデビュー作のなかにある。

 

パンク・ロックとはなにか、ラモーンズの演奏を10秒聴けばわかる。「ワン、ツー、スリー、フォッ!」と吠える素早いカウントから、かきむしられるギターと「速い」ビートであと数秒……ただ、歌が始まるまで「どの曲だかわからない」こともある。ライヴでは僕も混乱させられた。偉大すぎるワンパターンだからだ。演奏時に愛想がないからだ(本当は、テンポが速すぎて演奏するだけで必死だから)。

 

ガッと脚を広く開いて地を踏みしめて、低い位置に楽器を構え、マシンガンのように弾くのが、ギターのジョニーとベースのディー・ディーだ。手足以外は微動だにせず叩きつづけるドラムスのトミーもいる。そして、2メートル近い長身にサングラス姿で、ロネッツのロニー・スペクターばりの「甘い歌声」を披露するのが、ジョーイだ。この全員が「ラモーン」姓を名乗った。だから彼らは「ラモーン一家」の義兄弟だ。ユニフォームは革ジャンにTシャツ、破れたジーンズ、キャンバス・スニーカー、そして長髪……音楽性のみならず、このキャラクターも愛された。

 

とくに外見面でのコンセプトを考えたのが、コミックブック・ファンのジョニーだった。彼はディー・ディーとともに、プラモデル好きの小学生と同程度の意味での「ナチ・マニア」だった。その趣味が反映されたのが、「電撃バップ」との邦題が有名なM1。これは進軍するワルガキをナチス・ドイツの「電撃作戦」にたとえたナンバーだ。彼らの代表曲であり、パンク・ロックの誕生を世に告げた輝かしい1曲――なのだが、もちろんこの「趣味」が叩かれた。しかしジョーイとマーキーはもちろん、関係者の多くもユダヤ人だった。この矛盾もまた、ラモーンズだった。

 

本作は最も長い曲で2分35秒しかない。トータル30分未満で計14曲。邦題は「ラモーンズの激情」だった。ジョーイ、01年没、享年49。ジョニー、04年没、享年55。ディーディー、02年没、享年50。トミー、14年没、享年65。アバとベイ・シティ・ローラーズを愛した、ニューヨークはクイーンズ区のワルガキ・チームは、音楽性同様、猛速度で人生を駆け抜けていった。

 

次回は42位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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