70年代末に台頭したパンク・ロックの戦国武将が、80年代の全米を制する―ザ・クラッシュの1枚(後編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

8位
『ロンドン・コーリング』ザ・クラッシュ(1979年/CBS/英)

 

Genre: Punk Rock, Rock, Reggae, Ska, Rockabilly, New Orleans R&B, Pop, Jazz
London Calling – The Clash (1979) CBS, UK
(RS 8 / NME 39) 493 + 462 = 955

 

 

Tracks:
M1: London Calling, M2: Brand New Cadillac, M3: Jimmy Jazz, M4: Hateful, M5: Rudie Can’t Fail, M6: Spanish Bombs, M7: The Right Profile, M8: Lost in the Supermarket, M9: Clampdown, M10: The Guns of Brixton, M11: Wrong ‘Em Boyo, M12: Death or Glory, M13: Koka Kola, M14: The Card Cheat, M15: Lover’s Rock, M16: Four Horsemen, M17: I’m Not Down, M18: Revolution Rock, M19: Train in Vain

※オリジナル・ヴァージョンのアナログ盤では、スリーヴにもレーベルにもM19の曲名記載はなかった。盤の最後、針がレーベルに向かっていくランオフ・エリアの空白部に、英文の曲名が手彫りで刻み込まれていた。

 

(前編はこちら)

 

 M1と同様の「新型」パンク・ロック、そのストレートなタイプに分類できるのが「ヘイトフル」(M4)、「デス・オア・グローリー」(M12)といった名曲群だ。酒場ジャズ調のナンバー(なのにパンクなのだ)もある。「ジミー・ジャズ」(M3)などがそれだ。ロカビリーはM2の「ブランニュー・キャデラック」だ。

 

「ロンゲム・ボヨ」(M11)はニューオーリンズR&B(調のパンク)だ。もちろんお得意のレゲエもあって「ルーディ・キャント・フェイル」(M5)は見事なる応援歌だし、なんと言っても、ベースのポール・シムノンが書いて歌った「ザ・ガンズ・オブ・ブリクストン」(M10)が突出している。印象的な、重く陰鬱なこのベース・ラインは、のちにDJのノーマン・クックがビーツ・インターナショナル用にサンプリングして全英1位に輝いた。そのシムノンがライヴ中にベースを床に叩きつけようとしている姿が、本作のジャケットに使われている写真だ。

 

 という本作の特徴について、メイン・ヴォーカリストでありギタリスト、ソングライターのジョー・ストラマーが、自らの言葉で的確に説明している。「パンクは『Change(変化)』って意味だった。『Fxxk』や『Sxxt』みたいな4文字言葉じゃなく、6文字だ。でもいまじゃ、パンクはトラディションだ。俺らはそんな Sxxt の一部にはなりたくない」(英〈サウンズ〉紙、79年7月6日号より)。こうした思想によって設計された、パンクの理念を内在させた「より新しく、強靭なロック」が、LP2枚組のダブル・アルバムである本作には詰まっている。この成功によって、パンクは期間限定の「ブーム」型消費材から脱し、永遠なる「反逆の音楽」へと、実質的に昇格させられた。これが人々を爆発的に「覚醒」させた。

 

 たとえばグリーン・デイら「イーストベイ・パンク」連中のクラッシュへの信奉は厚く、なかでもランシドなどはパンク・ロックではなく「ジャンルはクラッシュ」と言ったほうがいいくらい、なにもかもがよく似ている(いや、心がけて「似せている」)。レゲエ界はもちろん、パブリック・エネミーを例に出すまでもなく、ヒップホップ勢にもクラッシュ・ファンは数多い。ハウスやテクノ界にも普通に多い。スケートボードほか、90年代以降の「ストリート」文化の周辺にいる者で、クラッシュの悪口を言う奴なんて、ただのひとりもいない。全世界のブルース・リー・ファンが、彼の映画から受け取ったような、誇り高き「心」のありかたを、パンク・ロックのなかで見せてくれた存在が、クラッシュだった。

 

次回は7位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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