第二回 工藤直子「あ・い・た・く・て」
関取花の 一冊読んでく?

ryomiyagi

2020/07/31

突然ですけど、やっぱりガリガリ君って素晴らしいですよね。

 

まだ不安定な天気は続いているものの、晴れの日はすっかり夏という感じの今日この頃。いやなジメジメを忘れるのにも、暑さを吹き飛ばすのにも、アイスって本当に最高だなあと思います。特にクーラーをあまりつけたくない派の私にとって、アイスは必須アイテムです。

 

最近は本格的な夏に向けてどんどん新商品が出ているので、いろいろと食べてみたりもするのですが、でも結局はガリガリ君なんですよ。単純に美味しいからとか値段が安いからとかどこにでも置いてあるからとかいろんな理由はあるのですが、ガリガリ君の良さって絶対にそれだけじゃないじゃないですか。

 

部活帰りによく一緒に食べていた友人を思い出したり、おばあちゃんちの庭を見ながら食べた時のことを思い出したり。口の中は冷たいのに胸の奥がじんわりあたたかくなって、何かしらの思い出が自然と浮かんでくるあの感じ。ガリガリ君がなんであんなに美味しいかって、多分そういうのも全部ひっくるめてなんですよね。だから何回も食べたくなる。

 

さてさてつい熱が入ってしまいましたが、これは私のおススメのアイスを紹介する連載ではありません。オススメの本を紹介する連載です。今回はこんな質問が来ていました。

 

#一冊読んでく?
〜あやさんからのご質問〜
花ちゃん、何度も読み返してしまう本は何ですか?私は10年前に買って読んでいた本が最近合わなくなってきたところです。成長した証?

 

あやさん、メッセージありがとうございます! 久々に読み返すと「おや?」ってこと、ありますよね。私もよくあります。なんなんですかね、あれ。初恋の人に同窓会で会ったらまるで別人になっていたみたいな。

 

個人的にはそれは合わなくなったというわけではなく、自分自身が様々な経験をしたことで受け取り方が少し変わっただけと思うようにしています。あと、少なくとも一度は面白いと思って読み込んだ本なのだから、捨てたり売ったりせずにとっておいています。またハマるタイミングが来る可能性もありますし、逆にこの先何回読んでも「いや、なんか全然ダメだわ」ということだったら、自分は何がそこまで変わったんだ? と思い返すきっかけにもなりますし。

 

そういうかたちで読み返す本もあれば、自然と定期的に何度も読み返したくなる本ももちろんあります。 何冊か思い浮かんだのですが、ちょうど今から約10年前に出会った本があるので、今回はそれをご紹介したいと思います。

 

『あ・い・た・く・て』
詩・工藤直子 絵・佐野洋子

 

この『あ・い・た・く・て』という本は、詩人であり童話作家でもある工藤直子さんの詩集で、挿絵は絵本『100万回生きたねこ』の作者でもある佐野洋子さんが担当されています。工藤直子さんの詩は言葉のリズムやひらがなの使い方が本当に心地良くて、スッと心に入ってきます。そしてそこに添えられた佐野洋子さんの絵がまた絶妙です。詩の内容を説明するようなものではなく、心象風景のような、読み手によって何通りもの受け取り方ができる、あたたかくて少し不思議な絵です。

 

もしかしたらこの本は、ある意味ではガリガリ君ともちょっと似ているかもしれません。読んでいるうちに胸がじんわりとあたたかくなって、気付けば大切な思い出や「だれか」や「なにか」を自然と思い浮かべている、そんな本です。だから何度も読み返したくなる。本のタイトルにもなっている『あいたくて』という詩は、まさにそんな詩です。

 

だれかに あいたくて
なにかに あいたくて
生まれてきたーー
そんな気がするのだけれど

それが だれなのか なになのか
あえるのは いつなのかーー
おつかいの とちゅうで
迷ってしまった子どもみたい
とほうに くれている

それでも 手のなかに
みえないことづけを
にぎりしめているような気がするから
それを手わたさなくちゃ
だから

あいたくて

 

この本に出会ってからの約10年間だけでも、私はこの詩にいろんなものを思い浮かべてきました。家族、友人、好きな人、今は会えなくなってしまった人、まだ見ぬ未来、新しい自分……。その時々で、本当にいろいろです。
自分の成長や変化に合わせて、思い浮かぶものが少しずつ変わってくるのも、この詩の素敵なところです。この他にも好きな詩はたくさんあるのですが、どれも読む時々によって感じ方が変わるので、最近はそんな自分の変化も楽しみながら読み返しています。

 

こうやって気負うことなく何度も読み返せるのは、難しい言葉やわかりづらい表現がない工藤さんの詩と、そこに寄り添う佐野さんの絵だからこそだと思います。読む人がそこに入り込める余白がきちんとあるから、何回でも自然と真っ白な心のまま読むことができる。

 

この本を読むと、大切な「だれか」や「なにか」に無性にあいたくなります。そして、そう思わせてくれるこの本に「であえてよかった」と読み返すたびに思わせてくれる、そんな一冊です。

 

 

引き続きみなさんからの質問、メッセージも募集しております。

 

#本がすき
#一冊読んでく

 

のハッシュタグをつけて、ツイッターでつぶやくだけです。「部屋干しの匂いに耐えられないのですがどの本を読めばマシになりますか」とか、「ガリガリ君よりハーゲンダッツ派の私にオススメの本はありますか」とか、多少の無茶振りでもなんとか答えてみせますので(笑)、どうぞお気軽に。たくさんのメッセージ、お待ちしております!

関取花

関取花

1990年生まれ 神奈川県横浜市出身。
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。
NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
ラジオと本をこよなく愛する。
神奈川新聞と、いきものがかり水野良樹さんのウェブマガジン「HIROBA」にてエッセイも執筆中。 2020年11月、初の著書となるエッセイ集『どすこいな日々』(晶文社)を上梓。
2021年 3月、 メジャー1stフルアルバム「新しい花」発売。

関取花ホームページ https://www.sekitorihana.com/
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