ryomiyagi
2020/09/04
ryomiyagi
2020/09/04
最近、お世話になっているミュージシャンの先輩から、できたてほやほやのCDをいただきました。「白盤」と言われるもので、世に商品として出る前のいわゆるサンプル盤みたいなものです。
兼ねてからその方の作る曲が大好きだった私は、家に帰って早速プレーヤーにCDを入れて、嬉々として再生ボタンを押しました。もう、イントロのギターの音から最高。完全に足元のエフェクターが少ないタイプの人のギターの音です。どこか懐かしくフォーキーな歌詞とメロディも相まって、私の好みドンピシャでした。
そのままじっくり目を閉じてCDに耳を澄ましたい気持ちも山々でしたが、猛烈にお腹が空いていたので、二曲目からは晩ご飯の支度をしながら聴くことにしました。その日はカボチャの煮物を作ったのですが、それはそれはとても美味しくできました。特に何をしたわけでもありませんが、濃すぎず薄すぎずちょうどいい、食べていてホッとするような味でした。
料理をしながら音楽を聴くと、私は結構音の感じが味に出ます。良くも悪くも影響されやすいタイプです。料理ならまだいいのですが、テレビやラジオの出演前に何の音楽を聴いていたかによって無自覚にテンションが変わってしまったりもします。
これはもうだいぶ昔の話ですが、バラエティ番組の収録直前までキングクリムゾンをガッツリ聴いていたせいで、頭の中がややカオスかつ気持ちが攻め攻めの状態で収録を迎えたことがありました。変拍子ばかり聴いていたせいか話のリズムも思うように掴めず、その日は大失敗しましたね(笑)。
でも本当にそれくらい影響されやすいんです。特に音楽や本など自分の好きなものであればあるほど。だからここ最近は、時と場合に合わせて身体に取り込むものを選ぶようにしています。
そんな私に、今回はこんな質問が来ていました。
#一冊読んでく?
〜Hitomi hanaさんからのご質問〜
私の本の読み方は、同時進行型?です。移動中、TVのCM中、寝室など。それぞれに読み進めています。
話がごちゃごちゃにならない?と言われますが、そんなことは全くなくて。
花ちゃんは、どんな読み方してますか?
Hitomi hanaさん、メッセージありがとうございます。お名前にhanaと入っていますが、これはもしかして同じ名前ですかね? だったら一気に親近感が湧いちゃいます。いや、そうでなくても既に親近感が湧いています。
なぜなら私もHitomi hanaさんと同じく、同時進行型だからです。時と場合、場所などによって読む本を変えながら、同時期に同時進行で何冊か読み進めます。ただ私の場合はなるべくジャンルが違うものを並行して読むようにしています。そうしないとどうも頭がこんがらがってしまって。
先にもお話した通り私は影響されやすいタイプなので、仕事前に読む本なんかは結構慎重に選んでいます。直前に重めの自叙伝やノンフィクションなどを読んでしまうと、声のトーンが如実に下がったり、一つ一つの受け答えに異常に慎重になってしまったりするので……。だからそういう時は、気軽に読めてその人らしさがよく出ているエッセイなんかをよく読みます。ライブの日も割とそういう本を読みますね。そうするとMCがなんとなくナチュラルにできるような気がします。
ということで、そんな仕事前に最近私が読んでいた本を今日はご紹介しようと思います。万城目学さんのエッセイ、『べらぼうくん』です。
『べらぼうくん』文藝春秋
万城目 学/著
万城目学さんは、『鴨川ホルモー』や『鹿男あをによし』、『プリンセス・トヨトミ』などこれまでにたくさんの話題作を発表している小説家さんです。ちなみに私は『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』が大好きです。
万城目さんの書かれる小説は、舞台設定や物語の背景設定が非常に面白く、「なさそうなのにありそう」に感じてしまう独特の世界観には毎回引き込まれてしまいます。
そしてなんと言っても、登場人物のキャラクターの描き方が秀逸です。心理描写やちょっとした行動から垣間見えるいい感じのマヌケさや熱さが、ついつい応援したくなってしまうというか、なんか全員好きになっちゃうんですよね。
そんな万城目さんのエッセイですから、当然ご自身の話や、細かい目の付け所なんかがめちゃめちゃ面白いわけです。その中でもこの『べらぼうくん』は、万城目さんが学生の頃から作家になる前までのことを書いているということで、より身近に感じられる内容です。
夢と希望を抱いて始まった大学生活、迷える就職活動、小説家になるため無職になってからのどん底の日々。自分がまだ何者でもない頃特有のゆるさや必死さには、共感する部分がたくさんありました。
私もテレビやラジオ、ライブのMCなんかで自分の昔のエピソードを話す機会がたくさんあります。でも、個人の思い出をみんながわかる話にして伝えるのって本当に難しいんですよね。ちょっとした箇所を省略するだけでわけがわからなくなるし、かといって1から10まで説明する時間もない。どんなに自分が面白いと思ったことでも、相手が想像できたり共感できたりしないとポカンとされてしまうわけです。
その点、万城目さんのエッセイはすごいです。同じ場所にいたわけでも同じ時間を過ごしていたわけでもないのに、ちゃんと想像できるし共感できる。特に京大生時代のお話のところは、「ああ、こういう感じの人自分が大学生の時もいたなあ」とか「自分もこうだったなあ」と思ったりして、なんだか懐かしい気持ちになりました。人のエピソードの隙間に自分も入り込めると、エッセイやトークって一気に面白さが増しますよね。この本はそういう部分でもとても参考になりました。
ちなみにこの本を読んでいた時、私は同時進行で藤野可織さんの『来世の記憶』と、高橋久美子さんの『今夜 凶暴だから わたし』を読んでいました。どちらも女性の奥深いところの強さや悲しみ、業のようなものが感じられる内容で、もうすぐ30歳になる私にはグサリと刺さりました。ですが、それゆえにこの二冊のテンションを引きずったまま表に出て行ってしまうと、「おや、関取花の様子がなんだかいつもと違うぞ」となってしまいそうだなと思ったので、合間に『べらぼうくん』を読みながら、ちょうどいい自分のバランスを保っていました。
という具合に、私は同時進行で何冊も読む場合、心にグサグサくる系のものは家で、どちらかというと気軽に読めてなんだか人と話したくなるようなものは人に会う仕事の前に、と、自分の中で分けて読み進めることが多いです。そうすると頭の中もごちゃごちゃにならず、むしろ良いスイッチングになります。
Hitomi hanaさんはどんな本を同時進行で読まれますか?よかったらまた教えてくださいね。他にも同時進行で本を読むという方がいらしたら、ぜひ教えてください。
引き続きみなさんからの質問、メッセージも募集しております。
#本がすき
#一冊読んでく
のハッシュタグをつけてツイッターでつぶやいていただければ、私が全部見て回ります。本に関すること以外でも、私に何かご相談やご質問があればどうぞお気軽に。正直に言おう、思ったよりメッセージが少なくて私は寂しいんだ!(笑) たくさんのメッセージ、お待ちしております。
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