ryomiyagi
2021/12/03
ryomiyagi
2021/12/03
早いものでもう12月、今年もあと少しで終わりです。日が落ちるのもだいぶ早くなったし、朝晩もかなり冷え込むし、何より外に出た時の寒さの感じがここ数週間でだいぶ変わった気がします。肌に触れる風の冷たさに芯がありますよね。「ああ、冬だなあ」と思います。
私は生まれも12月だし冬は好きなのですが、毎年この時期くらいからあることに本格的に悩まされます。そう、冷えです。もうね、信じられないくらいの冷え性なんですよ。特に身体の末端、足先、手先、あとなぜか鼻もすごく冷たくなります。身近な人に「ちょっと触ってみて」と指先を触らせてみると、「え、嘘でしょ」とほぼ100%言われるくらい。体質なのかなんなのか、部活でバリバリにバスケをやっていた中学生の時でさえ、身体はもちろん、手先が温まるのがとにかく遅かった記憶があります。冷えたままだとすぐに突き指してしまうので、バスケ部時代の私にとって冬は恐怖のシーズンでした。
今はもうバスケはやりませんが、かわりにギターを毎日弾きます。冷えて固まった指先のままではいつも通りに弾けないし、集中力もすぐに途切れてしまうので、やっぱり冷えは私の天敵です。じゃあ対策をするしかないねって話で、冷え性に効くという漢方のお茶を飲んでみたり、ストレッチをしてみたり、じっくり半身浴をしてみたり、いくつか試してみたこともあるんですが、そこはやはり超がつくほどのめんどくさがり屋、なんなら『めんどくさいのうた』という曲まで作ってしまっている関取花。……続くわけがない!!(笑)
なんでかなあ、自分でもほぼ無意識のうちに、綺麗なグラデーションを描いて日常生活からそれらの行為がスーッと消えていくんですよね。いつ買ったかも覚えていないような漢方のお茶、大量にあるなあ。はじめは張り切って続ける気満々で買うから、大体箱買いしちゃうんですよ。まあ、いつかはきっと飲むでしょう。
そんな私ですが、唯一これだけは続いているという冬の冷え対策があります。毎日やっても飽きなくて、コストフォーマンスもよくて、身体も温まる、ザ・日本の冬の代名詞といえばなんですか? ね、もうあれしかないですよね。鍋ですよ、鍋。
一人暮らしを始めた当初は今よりもっともっとお金がなくて、当然アルバイトをしながらの生活でした。はじめに住んだ部屋は17平米のワンルーム、キッチンやユニットバス、わずかな収納など全部込み込みでのその面積だったので、居室部分は5〜6畳くらいだったと思います。そこに本棚やら作業デスクやらベッドやら何本ものギターやらを置いていたので、部屋は物でぎゅうぎゅうでした。でもそのおかげでというか、ひとたび鍋をぐつぐつすれば、割とすぐに部屋があたたかくなったんですよ。エアコンは付いていましたが、電気代のことを考えるとなかなか暖房は使えなくて。そんな時の救世主こそが鍋だったわけです。鍋だと湯気も出るから部屋の温度に加えて湿度まで上げられるし、食べている最中は身体もポカポカしますから、ただ美味しく食べるだけであらゆる対策ができてしまうという。もう、あなたが神かと。なんて素晴らしい食べ物なんだと心底思いましたね。
しかも当時行っていたスーパーでは21時以降になると、野菜コーナーのもやしとかのあたりで見かける「鍋野菜セット」的ないろんな野菜が入ったやつが、よく半額になっていたんですよ。100円以下で何種類もの野菜を食べられるなんて、え、本当にいいんですか? じゃあ遠慮なくいただきますけどって感じで、お財布の冷え対策のためにも、ありがたく狙って買いに行っていました。
あれからもうどれくらいだろう。23歳で東京に出てきたはずなので、もう7、8年ですかね。未だに家で作る料理は鍋が一番好きです。料理は好きなので他にも自炊はしますけど、冬はやっぱりいろんな意味で鍋が最強だと思っています。今となってはそういう思い出もあってより沁みますしね。一人で作って食べても身体だけじゃなく心まであんなに温まる料理って、他にないんじゃないかな。というわけで、前回はみなさんにこんな質問をさせていただきました。
今月の質問:「好きな鍋の具材はなんですか?」
シンプルな料理だけど何を入れても美味しいぶん、回答にばらつきが出るんじゃないかなあと思ったら、やっぱりでした。じゃがいも、湯豆腐、お魚、その他にもいろいろありましたが、今回はその中からこちらの回答をピックアップ。
お名前:うっちー
回答:牡蠣はついつい入れちゃいます。生牡蠣も大好きだったのですが、一度当たってしまってからはなかなか食べる勇気が湧かず…。その反動か、鍋の種類を問わず隙あらば投入して牡蠣欲を満たしています。
いかんいかん、読んでいるだけで食べたくなってきたぞ。いやあ、牡蠣鍋最高ですよね。ぐつぐつ煮込んでいくうちにつやつやプルプルの身が少しずつ小さくなっていって、「どうしよう、なんかもったいない感じがする。減ったぶんは一体どこへ消えちまったんだ」と一瞬不安になりながらも、ひとたび鍋の汁や野菜なんかを口に入れたら、フワッと口の中に広がる牡蠣フレーバー。もちろん牡蠣本体を食べたらあの独特の旨味がじゅわっと。たまんないですよね。
ただ牡蠣ってやっぱり、安くはないじゃないですか。実家とかだとたまにありましたが、一人だとなかなか……。だからうっちーさんがめちゃめちゃ羨ましいです。隙あらば牡蠣を投入しているなんて、なんですかその夢のような光景は!
ちなみに私は一人鍋で牡蠣を入れたのはたった一回だけです。一人暮らしをはじめてから最初に迎えた自分の誕生日祝いに。その日は「鍋野菜セット」が売り切れていたので、かわりに半額になっていた「カット白菜」を買って、これだけじゃさすがに寂しいからとあと何か一つだけ具材を入れようと思った時に、海鮮コーナーで牡蠣を見つけて、買って帰りました。実家から持ってきていた本だしを少し入れたお湯に、白菜と牡蠣を投入して、ポン酢で食べました。今でもあの時の味は忘れられないです。
ということで、今回はこんな本をみなさんに紹介しようと思います。「白菜のなぞ」という本です。
「白菜のなぞ」
板倉聖宣/著
1994年、仮説社刊
その白菜と牡蠣だけの鍋をたべた時に、「牡蠣うまーっ!」ってなったと同時に、「白菜ってこんなに美味しいんだ」とえらく感動したんですよね。主役の牡蠣を一切邪魔しないというか、キャベツやレタスなどの一見似ている形状の野菜たちに比べて、そういえば全然青臭さや土っぽさが気にならないなあと思って。火を入れてもみずみずしくてシャキシャキしている感じとか、噛むと中から水分が溢れ出てくるあの感じとか、いつ頃から食卓に並ぶようになったんだろうとふと疑問に思い、手にとった本です。表紙の絵にも興味を掻き立てられます。
読んで驚いたのですが、白菜が中国からやってきて日本にちゃんと浸透していったのは、意外にも明治維新以降なんだそうです。鍋はもちろん、漬物やお味噌汁に入れたりと、日本の食卓では今やなくてはならない存在の白菜だから、てっきりもっと昔からあると思っていました。そもそも、なんで白菜は白菜と言われるのでしょうか。本の中にはこう書いてあります。
ハクサイのタネをまくと、最初は普通の植物の葉と同じような葉が出てきます。ところが、何枚かの葉が出たあとの葉は、しぜんに重なりあって巻いてしまうのです。そこで、なかのほうの葉には太陽の光が当たらなくなりますから、白くて柔らかな葉ができるのです。白い葉は柔らかくておいしいので、「白菜」と呼ばれるようになったのです。
白いから白菜なんだろうなとは予想がつきましたが、なんであんなに白いかと聞かれたら、正直よくわかっていませんでした。光が当たらないから白いんですね。人間の肌が日焼けするのと同じ原理だと知ると、なんだか面白いですよね。
明治政府によって輸入された白菜ですが、はじめは栽培で相当苦労したようです。光を通さないほど葉がぎゅーっと重なりあって綺麗な形になるためには、葉がまるまって球になる(=結球する)必要があるのですが、これがなかなかうまくいかなかった。その原因は、同じ種類の植物との交配。白菜って花を咲かせるんですよね。黄色くて丸い花びらがとってもわいい。この花のメシベの先に他の花粉がついてしまうと、結球しなくなってしまうんだそうです。
地質や天候ではなく自然交配が原因だったとは、逆になかなか思わないですよね。それでもその原因にたどり着けたのは、さまざまな研究者や農業従事者の方々の熱意と行動、探究心があったからでした。失敗を繰り返しながらも、白菜を日本に広めようとする人たちが協力しあって少しずつ最良の栽培方法を見つけるまでのストーリーも、本書には詳しく書かれています。中学生以上なら誰でも読めるようにという思いから、全体を通してやわらかく親しみやすい文体で書かれていて、とても読みやすいのも嬉しいところです。
あなたは「ハクサイ(白菜)」が好きですか。
私は漬けものにしたハクサイに少ししょうゆをつけて、ご飯に巻いて食べるのが好きです。
これは本書の書き出しです。野菜の伝来や栽培の歴史を記した本と聞くと少し構えてしまうかもしれませんが、読者と同じ目線の疑問を常に持ちながら、ひとつひとつわかりやすく時系列を追って説明してくれているので、楽しくあっという間に読めますよ。そして読んだあとにはより白菜を身近に愛しく感じられること間違いなしです。これからますます寒くなって、本格的な鍋シーズンが到来します。その前に「白菜のなぞ」を知っておけば、より美味しくいただけると思います。よかったらみなさんも読んでみてくださいね!
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月に一回の更新なので、今年の連載ぶんはこれが最後になります。拙い文章で至らない点も多かったと思いますが、なんとかこうしてぶじ連載を続けながら年を越せそうで一安心です。それもこれもすべては読んでくださるみなさんのおかげです。いつも本当にありがとうございます。少し早いですが、来年もよろしくお願いいたします。引き続きお互い健康第一で、かつ気楽に過ごしていきましょうね。それでは、今年最後の私からの質問です。
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