第八回「スヌーピーの大好きって手をつないで歩くこと」
関取花の 一冊読んでく?

BW_machida

2021/02/05

先日、中高校時代の仲良しグループでオンライン飲み会をしました。みんなとはなんだかんだ12歳の頃からの付き合いになります。まだ制服に着られていたような時からお互いを知っているので、言ってしまえば大体のことは知っているわけです。いつからコンタクトレンズにしたのかも、化粧を始めたのかも、初めての彼氏ができたのかも。そんな私たちも気付けばもう30歳、集まれば自然と「〇〇ちゃん結婚したんだって」みたいな話になります。

 

とはいえ、みんな年齢やよく言う女の幸せといったものにとらわれて物事を考えるタイプではないので、「私たちも早くお嫁に行かなきゃね」みたいな話にはあまりなりません。幸せの形は何も一つではないですからね。仕事に邁進し続けることで充実する毎日だってあるし、両親のそばにいることで得られる宝物のような日々もあるし、最高のパートナーを見つけることで色づく世界もある。本当にそれは人それぞれです。その人が昨日より今日、今日より明日、より「いい顔」でいられるならなんだっていい。

 

その日のオンライン飲み会は、Aちゃんの誕生日を祝うために開催されました。はじめに「おめでとう」「三十路へようこそ」など各々伝えたら、あとはただダラダラ喋るだけなんですけど。これだけ付き合いも長くなってくると、離脱するのも画面外へ消えるのも自由です。途中で寝だすなんて当たり前すぎて、もはや誰もツッコミません。そんな感じで2時間ほどが過ぎたあたりでしょうか。「そういえば私からもみんなに伝えたいことが」と、今度はYちゃんが手をあげました。こんな風に誰かがあらためて場を仕切り直すなんて、めちゃめちゃレアなケースです。なんだなんだと身を起こしてみんなが耳を傾けました。転職かしら、引っ越しかしら。でも何にせよ絶対に良い報告なのはすぐにわかりました。だってすごくいい顔をしているのが画面越しでもわかりましたから。そして、中学生の時から変わらない、ちょっと低めの声と照れた時の不器用な笑顔で彼女は言いました。「あ、結婚しまーす」

 

その時の私たちの湧きようと言ったらすごいものでした。「うおおおおおおぉ!」「おめでとぉおおおおぉ!」みんな同時にマイクが割れるくらい大きな声で叫びました。私も思わず足をバタバタさせて、膝にかけていた結構重めのブランケットをものすごい勢いでバサッと落っことしてしまいました。ブランケットは横の棚の上に置いていた超お気に入りのビンテージのスノードームにぶつかり、そのまま床に落っこちました。割れたガラス、散らばった白い粉と水。中に入っていた人形の腕は折れ、部屋着の裾は濡れました。慌てて立ち上がった瞬間、足には小さなガラスの破片が刺さりました。いつもだったら泣きたいところですが、この時ばかりはそんなのどうでもよかった!

 

Yちゃんと私は中学のバスケ部時代からの仲間です。あの頃から誰よりも真面目でまっすぐな人でした。何より、Yちゃんは優しい人です。でも、ただなんでも「いいよいいよ」と言ってくれるだけのそれとは違います。なんというか、機微のわかる人です。相手の気持ちや状況を汲んで物事を考え、見極め、接してくれます。背が高くスタイルも良いし、落ち着いてなんでもこなせるから一見クールにも見えるけれど、それは誰よりも人のことをきちんと見ているから。冷静にみんなのことを見守ってくれているから。昔からなにかと頼りになる存在、それがYちゃんでした。ゆえに、時々思うことがありました。Yちゃんはきちんと誰かに甘えたり頼ったりできているのだろうか? と。

 

でももう安心です。Yちゃんは心を委ねられる素敵な相手と出会いました。そしてこれからはその方とより穏やかな時間を共に過ごしていくのでしょう。その姿を想像すると、なんだか本当に嬉しくて、熱いものが込み上げてきました。何より、お相手の話をする時のYちゃんの顔は間違いなく「いい顔」でした。リラックスしている時の少女みたいな顔。私たちの大好きな、Yちゃんの優しさがにじみ出ているあの顔。本当は直接会ってハグしておめでとうを伝えたいところでしたが、こんなご時世だから仕方がありません。画面越しに全力で伝えておきました。あと、いつか結婚式をやるなら絶対に呼んでほしいと言っておきました。友の幸せを願い、嬉し泣きしながら泥酔するのが夢なんだよ、私は(笑)。それもまた一つの幸せの形でしょうよ。

 

さてさて、そんなハッピーのおすそ分けをもらったばかりの私ですが、先月は偶然にもみなさんにこんな質問をしていたのでした。

 

関取花の今月の質問:最近あったハッピーな出来事はなんですか?

 

そしたらこんな回答をいただいたのです。

 

お名前:麻紐の結目
花さんこんにちは! 最近、高校時代の同級生から、結婚の報告がありました!高校生の時から付き合っている2人なんです!当時告白する時は、冷やかしながらも背中を押したのが、今では良い思い出です。 高校を卒業して8年になります。卒業してからほとんど会ってないけど、わざわざ連絡くれたことが嬉しかったです。そして、2人の“これまで”と“これから”を思うと、とても感慨深くハッピーな気持ちになりました!

 

麻紐の結目さん、ありがとうございます。そして同級生の方、ご結婚おめでとうございます! もうね、わかる、わかる。そうなんですよ、これまでを知っているからこそ、報告を受けた方の喜びもひとしおですよね。これまで以上の幸せがあの子のこれからに降り注ぎますようにと、自然と願ってしまう。そしてふと思うんです。「ああ、私あの子のこと大好きだなあ」って。

 

卒業してからほとんど会っていなくても、きっと麻紐の結目さんとその同級生の方はお互いが大好きなんだと思います。自分の幸せを誰かに分けてあげたいと思えたり、誰かの幸せを自分のことのように喜べるって、本当に素敵なことです。会う頻度とかでは測れない、もっと大事なところで何かがずっと繋がっていたのでしょう。

 

そんな麻紐の結目さんにぜひ紹介したい本があります。「スヌーピーの大好きって手をつないで歩くこと」です。

 


「スヌーピーの大好きって手をつないで歩くこと」
チャールズ・M・シュルツ(著)、谷川俊太郎(翻訳)
2008年、主婦の友社刊(1400円+税)

 

この本では、「大好き」と感じるいろんな瞬間が描かれています。でもそれはどれも本当に些細なことです。大好きって、自然と溢れ出てくる感情なんだなあとあらためて気づかせてくれます。

 

大好きっていちばん大事なマンガ雑誌を貸しちゃうこと。

大好きって軽く勝てると知ってて負けてあげること。

大好きってポップコーンを分け合うこと。

大好きってわざわざ手紙を書くこと。

大好きって手をつないで歩くこと。

 

狙った言葉や行動で示さなくても、当たり前のようにやっていることが何よりの「大好き」の表現になっているんですよね。スヌーピーのキャラクターたちのイラストも可愛くて、読んでいるだけで心がじんわりと温かくなる一冊です。中でも私はこの言葉がとても好きでした。

 

大好きってあの子がしあわせだって知るだけで自分もしあわせになること……
でも、それはそんなにたやすくない。

 

当たり前のように大好きという感情が湧いてくることって素晴らしいことだけど、そんなに誰しもに抱ける感情でもないんですよね。そもそもそれほどの仲になれないことの方が多いし、どんなに仲が良くても相手の幸せに嫉妬して素直に喜べないこともある。でも、そんなにたやすくないからこそ尊い感情なんだと思います。それが恋人であれ友人であれ、大好きな相手に出会えるって本当に奇跡みたいなことなのかもしれません。そう考えると、そういう相手がいる私も、Yちゃんも、麻紐の結目さんも、同級生の方も、みんなまとめて幸せ者です。これからもそういう相手を大切にしながら生きていきたいですね!

 

 

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関取花

関取花

1990年生まれ 神奈川県横浜市出身。
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。
NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
ラジオと本をこよなく愛する。
神奈川新聞と、いきものがかり水野良樹さんのウェブマガジン「HIROBA」にてエッセイも執筆中。 2020年11月、初の著書となるエッセイ集『どすこいな日々』(晶文社)を上梓。
2021年 3月、 メジャー1stフルアルバム「新しい花」発売。

関取花ホームページ https://www.sekitorihana.com/
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