akane
2019/04/26
akane
2019/04/26
痛みは容赦なく襲ってきた。このままでは気がふれる――。本能的に危機感を感じた。
とはいえ、ベッドで寝ているだけの身では、できることは限られている。唯一、すがれる手段があった。自分の意識を痛みから遠ざけることだ。
「別に痛くないんだ」「大した痛みではないんだ」「むしろ、気持ちいいんだ」
念じるかのごとく、すがるかのごとく、脳をコントロールできないか、試みた。
意志の強さで一瞬、体が楽になる。しかし、安寧を壊し、モカさんの意志を砕くかのごとく、再び全身に激痛が走る。
「痛い痛いと思うと、痛くなる。一瞬一瞬、別のことを考えよう──」
こうした時間を2週間、過ごしていくうちに、あることに気がついた。
いつごろだったかは思い出せない。痛みで苦しむ脳に、はたと、一つの考えが舞い降りた。
「そうか、これは人生の縮図ではないか」
「人生も私にとっては、『痛い』の連続だった。いま、体の痛みから意識をそらそうとしている。同じように、人生の痛みから気をそらすことによって、人生そのものをやり過ごすことができるんじゃないか」
「生きることをつらい、つらいと思うから、よりつらくなるんだ。日々の痛いことから意識をそらし、痛くないこと、楽しいことを考えることは、『生きるヒント』になるんじゃないか」
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以上、『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(モカ、高野真吾著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成しました。
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