「地球外知的生命の発見」は、今日かもしれないし、明日かもしれないし、永遠にないかもしれない
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『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)を上梓した三井誠さんは、アメリカで「地球外知的生命」に関連した取材をした時、「アメリカという国は、多様で、不思議な国だ」とつくづく思ったそうです。地球外知的生命とは、地球以外の宇宙のどこかにいるとみられる、私たちのような文明を持つ生命のことを指します。もちろん、その存在はまだ確認されていません。ちなみに「未確認飛行物体(UFO)」は、「彼らが地球にやってくる時の乗りもの」ということになっています。

 

「地球外知的生命探査(SETI)協会」を訪ねる

 

アメリカでは、地球外知的生命を探す真面目な研究が行われています。

 

地球外知的生命探しで中心的な役割を担ってきたのは、1984年に設立された民間研究団体「地球外知的生命探査(SETI)協会」(カリフォルニア州)です。シリコンバレーの一角にある研究所を、私は2016年に取材で訪れました。

 

地球外知的生命を20年にわたって探し続けているセス・ショスタック上級研究員は、宇宙人の来訪について「アメリカだけを選んで来るのでなければ、世界中の政府が隠していることになる。秘密を保てるとは思えない」と明快に否定しました。

 

一方で「宇宙には約2兆個の銀河があり、各銀河に約1兆個の惑星があるとされる。地球外の知的生命はどこかにいるはずだ」とも話してくれました。

 

地球外の知的生命なんて、どうやって探すのでしょうか。

 

太陽系内であれば無人探査機で探しに行けるかもしれませんが、太陽系内に私たちのほかに知的生命が存在する可能性は低いでしょう。また、太陽系の外まで実際に調べに行くのは難しいでしょう。遠すぎるのです。ですから、探査機で実際に行って探すのではなく、宇宙からやってくる電波を調べることになります。

 

自然の天体現象では説明できない電波があったら、地球外の知的生命が発信した電波かもしれません。その電波に何かのメッセージが込められている可能性があるということです。

 

SETI協会などは2007年、地球外知的生命が発する信号をとらえるための電波望遠鏡をカリフォルニア州北部に設置しました。

 

私は、地球外知的生命の存在を明らかにするかもしれない現場を見たくて、そこにも行ってみました。

 

サンフランシスコから飛行機でレディングという最寄りの街に向かい、さらにレンタカーを1時間半ほど運転し、望遠鏡が設置されているハットクリークに着きました。

 

訪れた山の中の草地には、直径6メートルのアンテナが42基、林立していました。(写真を参照)

 

SETI協会などが設置した電波望遠鏡(2016年5月、カリフォルニア州ハットクリーク)

 

一つの大きなアンテナを作るよりも、複数のアンテナのデータを合わせることで、わずかな信号でも観測できる望遠鏡になるそうです。

 

望遠鏡はすべて遠隔で制御されていました。現地には事務所を管理する女性が一人いました。しかし、ほかには芝を整えるブルドーザーが走っているだけでした。

 

カリフォルニアの抜けるような青空の下、今ここで、はるかかなたの宇宙にいる知的生命が発した電波がとらえられているかもしれないと想像すると、なにかSFの世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えました。

 

ショスタックさんは「2030年までに地球外知的生命からの電波をとらえたい」と話していました。

 

もしかしたら、地球外知的生命の発見は、「今日」かもしれませんし、明日かもしれませんし、あるいは永遠にやってこないかもしれません。

 

それは誰にもわかりません。

 

望遠鏡の設置費用は4000万ドル(約44億円)。マイクロソフトの共同創設者ポール・アレン氏らから寄付を受けました。SETI協会の地球外知的生命探しは現在も、民間からの寄付で続けられています。

 

本当にいるのかどうかわからない地球外知的生命探しは、政府が研究費を出しにくい分野です。

 

米航空宇宙局(NASA)は土星や木星の衛星、火星にいるかもしれない微生物などの探査には力を入れていますが、知的生命探しとなると話は別です。

 

それでも、民間の寄付金でなんとか研究が続けられているというのは、アメリカらしい話です。

 

世界中でいちばん熱心に地球外知的生命を探しているのは、アメリカのようです。

 

ショスタックさんは、その理由を次のように話してくれました。

 

「フロンティアを求めるのが、アメリカ人の心だからね」

 

私たちは、宇宙で孤独な存在なのでしょうか――。

 

※本稿は、三井誠『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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